角界随一の人気力士が、決断を下した。大相撲春場所で左膝を負傷し、再起が注目されていた西前頭9枚目の遠藤(24=追手風)が5日、夏場所(10日初日、東京・両国国技館)出場を表明した。この日の稽古終了後、出場について「今日です。今、決めました。出る方向でいます」と言明。ブランクは否めないが、ひとまず最悪の事態を回避することにこぎつけた。

 自分への期待、一抹の不安、3月の悪夢からここまで仕上げた充実感…。さまざまな感情をない交ぜに、遠藤が口を開いた。「これだけ体が動けた。いまのところ、いいふうに考えて出る方向でいます」。慎重な物言いながら、事実上の出場宣言だった。

 報道陣の監視を避けた上で、数日前から全体の稽古終了後、土俵に入り立ち合いにぶつかるだけの稽古を重ねていた。そして、かねて追手風親方(元前頭大翔山)が出場の可否を決めると明言していたこの日、幕下力士の申し合いの途中、遠藤が土俵に入った。掃き清められた土俵に入り、幕下力士と正対。羽目板に豪快にたたきつけての押し、回り込んでの寄り、出し投げから崩しての詰めと、慎重に動きを確認するように計12番。16分の試運転を終え、遠藤は決断した。

 春場所5日目の松鳳山戦で前十字靱帯(じんたい)と半月板を損傷。損傷の程度によっては手術する可能性もあったが、治療とリハビリで回避した。将来を考え休場の選択肢もあったが「それらも考えた上でここまで来た。無理なら無理と思ったでしょう」と遠藤。番付からみて全休ならもちろん、出場しても3勝以下なら十両陥落の可能性が高い。そんな番付上の計算からではなく「これなら相撲を取れる」という確信が出場の決断に導いた。

 懸命なリハビリと根気を要する治療を続けて、ここまで仕上げてきた。そんな自負も、遠藤の心を後押しするようだ。

 遠藤 2場所休場とか普通なら(復帰に)半年(かかる)でしょう。2カ月は長かったけど、諦めずに、しっかり取り組んで今がある。でもここでホッとするのでなく、気を引き締めたい。

 現在の相撲ブームを支える人気力士。苦悩と葛藤は尋常ではなかったはず。そんな愛弟子の胸中を、追手風親方は「努力する姿を人に見せたくないんでしょう。普通じゃあり得ない」と察しつつ、驚異の回復力に舌を巻いた。出場すれば、待望の大銀杏(おおいちょう)を結える。「もう結えるでしょう」。報道陣との最後の対応で発した時だけ、チラリと笑みをこぼした。自分への期待も込めて。【渡辺佳彦】

<遠藤のけがの経過>

 ◆負傷 春場所5日目の3月12日、松鳳山戦の土俵際で逆転の突き落としを決めた際、相手の体に左膝を巻き込まれる形で負傷。立ち上がれず、車椅子で引き揚げ病院へ直行し入院。4勝1敗で途中休場した。

 ◆稽古再開 4月9日に下半身の稽古を再開し、感覚を確かめるように四股を踏み始める。最初はバランスを崩す場面も見られたが徐々に足も上がり、先月末には顔の高さを越えた。師匠の意向で報道陣への対応はなし。

 ◆ぶつかり稽古 3日には、部屋の若い衆と立ち合い、ぶつかる稽古を敢行。

 ◆相撲 5日、負傷後初めて幕下力士と土俵に入って相撲を取る。