優勝争いは、千秋楽の直接対決に持ち越された。横綱鶴竜(29=井筒)は、大関豪栄道(29)を寄り切って2敗を守った。続く結びの一番では、横綱白鵬(30)も大関稀勢の里(29)を寄り切り、1敗を守った。千秋楽の横綱対決。白鵬が勝てば35度目の優勝が決定し、鶴竜が勝てば、2人による優勝決定戦となる。

 立ち合いで、鶴竜が突っかけた。珍しい光景だった。戻りながら審判長に一礼した。2度目は反対に自身が待った。そこに、勝利への強いこだわりが見えた。

 「とにかく、自分のタイミングで立ちたかった。昨日の反省を生かして」

 前日の稀勢の里戦は、立ち合いで決まった。だからこだわった3度目。左四つから巻き替えられた瞬間、頭を相手のアゴの下に潜らせた。「胸を合わせると首投げがある」。冷静な判断。豪栄道の捨て身の技を警戒し、我慢した。最後は力強く寄り切った。白鵬に優勝を決めさせなかった。

 3場所ぶりの本土俵で、千秋楽決戦に持ち込んだ。ただ、逆転優勝には本割と優勝決定戦での2連勝が必要。過去68度ある同様の場面で、成し得たのは9度。鶴竜自身、昨年九州場所では白鵬に本割で敗れた。圧倒的不利な状況。

 だが、当時と状況は違う。モンゴルでは一時帰国したムンフザヤ夫人と、5月に生まれた長女アニルランちゃんが相撲を見ている。毎日写真が送られてくる。「生まれたときは4480グラム。今は6キロくらい」。すくすく育つわが子に、横綱として初めての賜杯を-。「最後なので、残っている力をすべて振り絞ってぶつけたい」。奇跡の復活優勝に、挑む。【今村健人】