大相撲史上初めて現職の理事長が本場所中に死去した15日間が幕を閉じた。千秋楽恒例の協会あいさつは、八角理事長代行(52=元横綱北勝海)が、北の湖理事長(享年62=元横綱)の「代読」という形を取った。幕内北太樹(33)は、北の湖部屋の力士として最後の一番を白星で飾った。

 粋な計らいだった。初日と千秋楽に行う協会あいさつ。理事長代行を務める八角事業部長が土俵の真ん中で「千秋楽にあたり、謹んでごあいさつを申し上げます」と切り出した。1分8秒かけて読み上げ、こう締めくくった。「平成27年11月22日、公益財団法人日本相撲協会理事長、北の湖敏満代読、八角信芳」。

 最後は涙声になった。場内から拍手。20日に急逝した北の湖理事長は、もういない。だが、あいさつでは訃報に触れず「代読」とした。土俵優先を貫く故人の遺志に従った。八角親方は、舞台裏をこう明かした。「(文章は)周りのみんなと相談してね。本人が一番、土俵に立ちたかっただろうね」。涙声になった理由については「最後に名前が出てくるところで、一瞬(理事長のことを)思ったんだよね」と振り返った。

 本場所で北の湖部屋の力士が相撲を取るのは、この日が最後。部屋頭の北太樹は、白星で飾った。魂のこもった一気の寄りに「気持ちは入りました」。部屋の名前がなくなることには「寂しいですよね。こんなに突然亡くなるとは思わなかったので、気持ち的には準備していませんでした」。北の湖部屋の本場所が、幕を閉じた。【佐々木一郎】