2016年の幕開けを飾ったのは、大関琴奨菊(31=佐渡ケ嶽)だった。本割りで大関豪栄道(29=境川)を下し14勝1敗、うれしい初優勝だ。

 日本出身力士の優勝は、2006年初場所の大関栃東以来10年ぶり。佐渡ケ嶽部屋からは08年夏場所の大関琴欧洲以来の賜杯となった。

 優勝の瞬間、場内で息子の勇姿を見守った父菊次一典さんが顔を覆って泣いた。花道を引き揚げる際、中学時代から切磋琢磨してきた豊ノ島から抱き合って祝福された。

 口をへの字に結んだ琴奨菊は、八角理事長から受け取った銀色に輝く賜杯の重みを初めて体感した。「つらいとき、成績を残せなかったとき、たくさんの人に応援してもらって、こうしてここに立っていられることがうれしい」。優勝インタビューで、顔に似合わぬ? 甲高い声を場内に響かせながら、細い目尻をいっそう下げた。

 発奮材料があった。昨年2月に祐未夫人と婚約した。32歳の誕生日でもある今月30日に挙式を控えていた。「勝負師は孤独なもの。とくに自分は考え込むほうなので、安らぎが入り、癒やしが入って、相撲にも向き合いやすくなった」。慌てず、騒がず、おごらず。夫人の存在がメンタル面でも心に安定をもたらした。平常心-。どんな場面でも落ち着き払っていた。

 夫人の料理も強力サポートとなった。「温かいご飯がある。それだけでも全然違う。ともに戦ってくれている感じ。心強いよ」。玄米や五穀米を炊いて体にも気を使ってくれる新妻と二人三脚。昨年の秋場所で7場所ぶりの2桁11勝。復調への手掛かりはつかんでいた。

 左四つから一気のかぶり寄り。重戦車をほう彿させる前へ出る相撲が勢いを取り戻した。横綱も蹴散らした。大関以下では91年初場所の大関霧島以来25年ぶりの3横綱撃破だ。「やるべきことをしっかりやって、土俵上の勝ち負けよりも、自分の決めたことをやりきるという気持ち。土俵に上がって、自ずと結果が出て、本当にうれしかった」。

 慢性的な膝のけがと闘いながら、大関の座を何とか守ってきた。昨年は5度目のかど番も味わった。崖っぷちを乗り越えてきた九州男児に涙はなかった。6日後に迫った挙式へ、愛妻にひと足早く“前祝い”を届けた。