横綱白鵬(31=宮城野)が史上3人目の通算1000勝を達成した。東前頭2枚目の魁聖を左からの豪快な上手投げで転がした。01年5月15日に古川から記念すべき初白星を挙げてから5663日、わずか15年半。左膝や右足親指の手術を乗り越え、横綱千代の富士の19年4カ月を4年も上回る驚異的な速さで偉大な記録に到達した。

 何度も目に焼き付けていた光景が、現実に広がっていた。大歓声の中で引き揚げた花道。白鵬の足を止めたのは、抱えきれない数の花束だった。26年半前の千代の富士と同じ姿だった。「最高です! よくビデオで相撲を研究したときに、その映像がありました。まさか自分が…。優勝したような気分! うれしかった」。先人と同じ世界に、やっとたどり着いた。

 節目の勝利は柔らかく、力強い左からの上手投げだった。右四つで胸を合わせて、前に出てきた魁聖を横転させた。瞬間に脳裏をよぎったのは実は、苦闘だった。「けがや病気、いろんなことがありました」。

 残り13勝で最初に挑んだ名古屋、続く秋場所と、2場所連続で1000勝に届かなかった。1度ならず、2度までも…。横綱になって初めてと言える足踏みだった。思い悩んだ。これは衰えなのか、と。「いや違う。自分ではない。けがのせいだと。そう思うことで頑張れた」。折れかけた心を立て直す。そのために選んだのが「変化」だった。

 秋場所中に右足親指の遊離軟骨を除去し、左膝には内視鏡を入れた。「15分ずつで終わると聞いていたのに、2時間18分かかった。途中で起きて『先生、痛い』と言ったくらい。思ったより大変な手術だった」。

 変化はそれだけで終わらない。直後には3日間の断食に挑んだ。食べ物がある家を離れて、事務所に泊まる。断食用の水が食事代わりで、最初の2日間は苦しんだ。だが「ずっと同じことをやるよりも、勝つために新しいことを入れる」。頂点に立つ者が攻めた。脳裏をかすめる衰えを、打ち消すために。だからこそ「いろいろな道のりを超えて達成できたので、ひと味もふた味も違う」と浸った。

 01年5月15日。横綱貴乃花が朝青龍の初挑戦を退けた日に、歴史の始まりを告げる1勝は生まれていた。それからたった15年半。くしくも「11月15日」は、6年前に自身の63連勝が止まった日。苦い思い出を色鮮やかに塗り替えて、次は先人2人の記録が迫る。だが、次の目標を「1001勝です」と笑った。これもまた千代の富士と同じ言葉。道はまだ半ば。前に進む白鵬の行く手に、終わりは見えない。【今村健人】