横綱鶴竜(31=井筒)は大きく息をついた。「1番勝つっていうのがどれだけ大変か、あらためて教えてもらった」。砂がついたことで洗い直した髪を整えながら、ホッとしていた。

 3連敗で迎えた隠岐の海(31=八角)戦。横綱は必死だった。突き、押しの応酬から出し投げを見舞うが、決められない。足技も繰り出し、土俵際まで攻め込むが、仕留められない。右の上手は一枚。すくい投げにこられたときは、あやうく体勢が崩れそうになった。

 下がりながらの懸命な上手出し投げに、最後は隠岐の海が転がった。ただ、自身も踏ん張りきれず、尻もちをついたほど。42秒の攻防に「慎重に、慎重にと、ちょっと慎重になりすぎたかな。でも、あれくらい慎重に取らないといけないのかなと思う」。そう振り返るほど、追い詰められていたのかもしれない。

 横綱昇進後、3連敗は2度目。ただ、前半戦で喫したのは初めてだった。さらに三役以下を相手に前半で4連敗すれば、53年春場所の千代ノ山以来の屈辱となるところだった。

 その不名誉から逃れて、気持ちを落ち着かせることができた。「1つ負けて、その後ズルズル行っちゃった。この3日間は気持ちと体がちょっとずれていた。変に調子に乗ったらいかんなと。(自分は)そういうタイプじゃないと、1つ勉強した。まだ終わったわけじゃない。また1つ経験したなと、前向きに考えていきたい」。

 日馬富士の休場で横綱は2人に。増した責任感を、再び背負い始めて歩き出した。