小結高安(26=田子ノ浦)が兄弟子の窮地を救った。1敗の横綱白鵬に初めてかち上げて行き、3秒3で勝負を決めた。これで2横綱3大関を撃破。直前に、全勝だった大関稀勢の里が琴奨菊に痛い初黒星を喫していたが、これを救うだけでなく、自らもトップと2差に迫った。稀勢の里が敗れたことで1敗は平幕貴ノ岩の2人。白鵬ら5人が2敗で追う。

 結びを前に、座布団を舞わせた。直前で稀勢の里の全勝が止まり、ため息に満ちた館内を一気に沸騰させた白鵬の黒星。演出したのは誰あろう、大関の弟弟子の高安だった。「思い通りの展開。良かったです。考えたようにできた。気持ちいいですね」。笑みはなくとも、言葉は弾んでいた。

 冷静な立ち合いだった。仕切りで前に出てきた横綱を見て、半歩下がる。そして普段と違って左足で踏み込む。「横綱は右で当たってくるから、自分も思いきって右で当たりました。横綱にかち上げをしたのは初めて」。圧力は十分だった。後ずさりするだけの白鵬を、逃さずに押し出した。

 大関とりだった先場所は7勝8敗。ただ「いい景色が見られた。上に行けば景色が違うと言うけど、その意味が少し分かった。でも、まだちょっと頭を出しただけ」。次こそと、欲が生まれた。だから180キロ超の体を176キロに絞った。冬巡業の食事はステーキのみ。「肉はやせる。軽くなった感じがある」。動く体で2横綱3大関を倒した。

 元日。稀勢の里らと例年の新年会を行った。特別に取り寄せた銀座久兵衛のすしを食すのが恒例。そして、1おけ50貫弱のすしが1おけ半も余るのも毎度のことで、大関が笑って必ず言う。「高安、出番だぞ」。

 「必ず自分に回ってくるんです。中トロやウニ、イクラ、エビ…。苦しいけどおいしい。幸せな“かわいがり”ですね」。食欲旺盛な自分を鍛えて? くれた兄弟子への援護射撃。「1番は自分のためだが、いい影響を受けてくれればありがたい。(優勝へ)自分も強い気持ちを持ってやる」。欲を隠さない姿がいい。【今村健人】