大関昇進と優勝へ、初日から破竹の12連勝中だった関脇栃ノ心(30=春日野)が、ついに止まった。3月の春場所で右肩を痛めた上に敗れた、因縁の前頭正代に再び黒星を喫した。立ち合いから攻めながらも、土俵際の引き落としで逆転された。前日12日目に横綱白鵬を破った勢いを持続できなかった。それでも今日14日目は、1敗で並んだ横綱鶴竜と対戦。勝って2度目の優勝に王手をかけ、勢いを再加速させるつもりだ。

 前のめりに倒れ込んだ栃ノ心の右手が、明らかに先に土俵についていた。正代の引きにたまらず体を投げ出し、相手ごと土俵外へと押し出そうとしたが残られた。立ち合いから押し込んだ。終始前に出続けた。それでも負けた。「足やな。引かれることが分かっていたから」と、足がついていかなかったことを悔しがった。「今日の相撲は忘れたい」。勝てば優勝に王手だった一番を落とし、陽気な男が静かに肩を落とした。

 前日は正反対に忘れられない相撲だった。26度目の対戦で初めて白鵬撃破。この日の朝稽古後は「優勝を決めた一番と、昨日の一番は忘れられない」と、1月初場所で初優勝を決めた松鳳山戦に匹敵する印象深い取組になったと力説した。

 100件を超える祝福メールが届き「すごかった。全部読めていない」と、うれしい悲鳴を上げた。その白鵬戦で大関昇進は決定的となり、この日も阿武松審判部長(元関脇益荒雄)は「判断は変わらないような気がする」と、高い評価を維持していると明かした。一方で同部長は「調子がいい力士がたまに取る相撲。ちょっと強引だった」と、優勝を狙えるからこそ、注文も忘れなかった。

 正代とは先場所も13日目に対戦し、敗れていた。しかも右肩を負傷。右肩痛の影響で、その後は稽古で基本的には相撲を取ることができなかった。若い衆に20番前後、胸を出す日が続いたが、新たな稽古も下半身の粘りを生んだと、今は前向きに考えられるようになった。この日も「明日のことは明日考える」と、黒星を引きずらない精神面の強さをのぞかせた。1敗で並んだ鶴竜との大一番で、優勝に王手をかけることに集中している。【高田文太】