元関脇安美錦の安治川親方(43)が、5月29日に東京・両国国技館で引退相撲を開催した。晴れ舞台に花を添えたのは、安治川親方の兄、元幕内安壮富士の杉野森清寿さん(45)だ。圧倒的な歌唱力で、弟へはなむけの相撲甚句を歌い上げた。

清寿さんは「2週間くらい前かな。弟から電話がかかってきて、『歌詞を送るから歌ってよ』と。ぶっつけ本番でしたよ」と笑う。歌詞は、津軽相撲甚句会から安治川親方を通じて送られてきた。

歌詞には、安美錦の相撲人生が綴られていた。一部の歌詞をアレンジして歌った。

「同じ部屋に入って、(安美錦に)先を越されたけど、あいつがいるからめげずに幕内まで行けたことは事実ですし、懐かしいと思って歌いました。土俵を離れて10年たちますが、相撲取りでよかったとあらためて思いました」

3学年上の清寿さんが先に入門し、3年遅れて弟が角界入り。しかし、出世は安美錦の方が早く、新十両も新入幕も後を追いかけた。

断髪式では、父・杉野森清克さんの1つ前ではさみを入れた。土俵上で、弟につぶやくように「お前のおかげで、幕内までこれた。ありがとうな」と声をかけた。

清寿さんは、大勢の観客で埋まった国技館を見渡して、こう思った。「あんだけの人を見て、愛された相撲取りだったんじゃないかと思いました。俺も感激しましたよ」。

兄は今、故郷・青森に戻り、産業廃棄物処理などを請け負う会社で支店長を務めている。これからは、親方として生きる弟を応援していく。兄弟として、節目の1日になった。【佐々木一郎】