俳優竹野内豊(39)が炎熱のジャングルで奮闘している。10年2月公開の映画「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」のロケがタイで進行中だ。初めて軍人を演じる竹野内は「過去にあった大きなことを残す必要は絶対ある」と固い決意を語った。作品は平山秀幸監督(59)が日本軍の、米国人監督が米軍の視点をそれぞれ描き、それを平山監督がまとめるという、本場ハリウッド流の撮影手法が取られるなど、邦画史上空前のスケールとなる。

 頭上をツタが覆い、木がうっそうと生い茂る密林では、立っているだけで全身汗まみれになった。木陰からのぞいた竹野内の顔は浅黒く、目だけがギラギラ光っていた。「残った民間人、兵の数を正確につかんでくれ」。木谷曹長役の俳優山田孝之(26)に命じる険しい口調は軍人そのもの。5月20日のクランクイン後、帰国は1回だけ。役作りで5キロ絞ったが、「40度くらい?

 危険を感じる」という暑さで、体はさらに鋭く研ぎ澄まされていた。

 竹野内演じる故大場栄大尉は、日本軍が玉砕したサイパンで100人程度の小隊を率い、512日間もゲリラ戦で米軍に抵抗し、「フォックス(きつね)」と恐れられた。終戦後の45年12月に上官の命令があるまで投降せず、米軍から英雄視された実在の人物だ。

 ロケ前に軍事訓練を2日受け、サイパンに行き、墓参りもした。一方で大場さんの手がかりはわずか2、3枚の写真だけ。戦争映画への出演も初めてで「手探りでやっています。撮影に1カ月ちょっと入ったくらいで分からないことだらけ」と日々、大場さんと戦争と向き合い続けている。そんな中、大場さんの次男と話をしたことが、数少ない役作りの糸口となった。

 竹野内

 大場さんは口にすることより、行動で示す人。自分の父と似ているというか…。父と子の関係が少し似たようなところがある。僕もほとんど父と口をきかなかった。

 日米開戦から来年で70年。戦争自体が風化されつつある今、竹野内は軍人を演じることで、歴史を語り継ぐ意義を感じている。

 竹野内

 日本人として、過去にあった大きなことを残す必要は絶対にあると思う。そういう作品に携われることは、とても大きな意味があると思います。

 クランクアップ予定は7月末。俳優竹野内の残り1カ月は、大場さんの足跡、戦争の悲劇をフィルムに刻む貴重な時間になる。【村上幸将】