市川海老蔵(39)が座長を務める六本木歌舞伎「座頭市」が上演されている。海老蔵がまったく新しい歌舞伎を目指して始めた六本木歌舞伎の第2弾。一昨年は宮藤官九郎の新作「地球投五郎宇宙荒事」だったが、今回は映画監督の三池崇史氏が前回に続いて演出を担当し、リリー・フランキーが歌舞伎脚本に初挑戦している。出演者は海老蔵をはじめ、市川右之助、市川右団次、片岡市蔵、市川九団次、大谷広松ら歌舞伎俳優だが、その中で、唯一、女優として参加しているのが寺島しのぶ(44)。海老蔵・座頭市と心を通わせる花魁(おいらん)の薄霧太夫と、盲目の少女おすずの2役を生き生きと演じているのが強く印象に残った。

 舞台を見ていても、寺島が歌舞伎を楽しんでいることが良く分かる。寺島は父は尾上菊五郎、母は冨司純子、弟は尾上菊之助という歌舞伎一家の長女に生まれた。しかし、女の子は歌舞伎に出ることができないため、今回が初めての歌舞伎出演となる。会見で寺島は「まさか歌舞伎に出演するとは思っていませんでした」と話したが、歌舞伎一家での男女の扱いの違いを幼い時に体験している。

 寺島は弟の菊之助が生まれるまでは「蝶よ花よ」と何でもやらせてもらっていたという。しかし、5歳の時に菊之助が生まれると、がらりと世界が変わったという。歌舞伎一家で男児は特別な存在で、周囲の関心は弟に集中した。寺島いわく「まるで天変地異でした」。歌舞伎に出ることができない寺島は文学座を経て、映画、ドラマで活躍した。そんな寺島を歌舞伎の舞台に引っ張り出したのが海老蔵だった。「かぶき踊りを創始したのは出雲の阿国という女性。性別を理由に、女性が歌舞伎をできないことを僕は分からなかった」という。そして、寺島といつか歌舞伎をやりたいと、以前から考えていたという。

 寺島は早変わりに挑んだり、海老蔵とのぬれ場をたっぷり演じたり、歌舞伎の役者に成りきっている。かつて18代目中村勘三郎は歌舞伎の舞台に、笹野高史ら歌舞伎以外の俳優を出演させて話題を呼んだことがある。寺島の出演は、歌舞伎の長い歴史で節目となる出来事になるかもしれない。【林尚之】