ウォーターゲート事件を題材にした「大統領の陰謀」はダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォード競演の話題作だった。40年を経た今作も教会という権威対新聞社の図式だが、日本では「事件」の認知度が低く、巧者ぞろいのキャストにも華はない。が、地道な押し引きが突破口を開き、アリの一穴が権威の山を崩す快感がある。

 地縁のない新任編集局長の指示で、ボストン・グローブの特集記事担当チームは、ある神父の児童性的虐待事件を掘り下げる。教会の裏側は地域のタブーであり、秘密主義は壁となる。が、粘り強い取材で複数の神父の関与と多数の被害者の隠匿が浮かび上がる。

 「大統領-」のように命の危険を感じる脅迫はない。が、旧知の人々から「勘弁して」。被害者からさえも「そっとしておいて」と泣かれる。つたない取材経験からいうのはおこがましいが、脅迫よりこちらの方が実はきつい。何のため誰のために記事を書くのか。本質が突き詰められる。

 指揮をとるマイケル・キートンの打たれ強さにリアリティーがある。昨年の「バードマン-」に続き、主演作が2年続けてアカデミー作品賞はだてじゃない。【相原斎】

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