最近の妻夫木聡は振れ幅の大きさを見せつけている。「怒り」は男性へのまぎれもない情愛を瞳に宿し、「ミュージアム」は異形の殺人鬼に成り切った。

 今回の主人公には違った難しさがあったはずだ。週刊誌記者の田中は感情を表に出さない。育児放棄で収監された妹(満島ひかり)を抱えながら1年前の未解決事件を追っている。

 惨殺された理想の家族には裏があり、田中が取材する友人たちもそれぞれがもうひとつの顔を持つ。他の登場人物が表と裏、善と悪の振れ幅でメリハリを付ける中、田中だけが動じない。目つきや口元をかすかに動かす、文字通りにじみ出るような演技である。

 「役に対する欲を捨てた」という自然体がいい。かえって底に秘めた心の闇を映し出しているように見える。コツをつかんだようなうまさだ。役柄からか、いつも心中を隠しているように見える満島同様、本心を読ませない。物語の進行とともにそんな田中と妹の心中が明らかになり、意外な結末に収束していく-。

 ポーランド人のピオトル・ニエミイスキが撮影監督を務め、「異国情緒」のフィルターが謎めいた空気を増幅している。【相原斎】

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