将棋のプロ棋士、佐藤天彦(あまひこ)名人(29)とコンピューターソフト「PONANZA(ポナンザ)」の2番勝負、第2期電王戦最終第2局が20日、兵庫県姫路市の姫路城で行われ、先手の佐藤名人が94手で敗れた。最も権威のある名人がソフトに連敗。人間VSソフトの電王戦は今大会で最後となったが、日本が誇る伝統文化の戦いでも、コンピューターの実力が人間を上回る形となった。

 将棋界の最も権威のある名人が最強将棋ソフトに連敗した。「負けました」。佐藤名人が目をつぶり、頭を下げた。盤を挟んだ前にいたのは2本の腕を持つロボット。ソフト「PONANZA」の指示通りに駒を動かす人工知能(AI)だった。

 佐藤名人は「私の将棋観を真正面からぶつけたが、敗れた。自分では思いつかない手を指され、結果的に差が出てしまった。PONANZAには私にない将棋観や構想があった」と強さを認め「私の感覚の外にあるような、人間の言葉で言えば無感覚。名人としてファンの期待に応えられなかったのは残念です」。序盤戦はほぼ互角で推移したが、終盤から精度の高い読みの前にリードを広げられて完敗した。

 プロ棋士とソフトが戦う電王戦は今大会で最後となり、将棋のソフトが人間を上回った。全対戦成績はソフトが14勝5敗1引き分けと大きく勝ち越した。

 将棋ソフトは人工知能の研究として1974年に開発がスタート。当初はアマ20級程度だったが年々、進化した。PONANZAは最強ソフトといわれ、プロ棋士を相手に6連勝中だった。

 PONANZAを開発した人工知能研究者の山本一成・愛知学院大特任准教授は「名人に勝つのは、私だけでなく開発者たちの願いだった。多くの先人たちの知恵に感謝したい」。PONANZAは機械学習というプログラムで24時間、超高速で自分自身を相手に戦い、最善の指し手を追求してきた。「途中の局面からも含めると、PONANZAが指した将棋は約1兆局。自分で学び、どんどん強くなった」。

 終局のシーンは人間とAIの新しい関係性を示すような光景だった。日本将棋連盟の佐藤康光会長は「ソフトが1枚も2枚も上手だった」と完敗を認めつつも「人間の指す将棋の限界が見えたわけではない。ソフトの発想からも学び、将棋の深さをより追求していければと思う」。ソフトを研究するプロ棋士も増えた。人間とソフトの新時代が始まる。【松浦隆司】

 ◆佐藤天彦(さとう・あまひこ)1988年(昭63)1月16日、福岡市生まれ。師匠は中田功七段。06年10月にプロ転向。現在九段。昨年5月、羽生善治現3冠に挑戦して名人を奪い、初タイトルを獲得。ベルギーブランドの服を愛用し、その語り口、容貌から愛称は「貴族」。本人のツイッターによると、趣味はファッション、クラシック音楽など。

 ◆電王戦 日本将棋連盟と「ニコニコ動画」を運営するドワンゴが主催。プロ棋士とコンピューターソフトによる対抗戦で、初回は2012年に引退棋士の故米長邦雄永世棋聖が敗れた。13年から3年間は5対5の団体戦で15年の大会でプロ棋士が初めて勝ち越した。昨年から再び個人戦。ルールでは、事前に棋士が対戦するソフトで練習でき、もし欠点が見つかっても開発者は修正できない。