大久保の蛮勇
<蛮勇だけどこういう息子や孫が欲しい>
スペインリーグに行ったサッカーの大久保選手(22=マジョルカ)が、右ひざの内部で膝蓋(しつがい)骨の端は欠けていて、かけらがじん帯にからんでいると診断された。
デビュー戦の対デポルティボのゲームで開始早々5分、タックルされて負傷したもので、その後1ゴール1アシストと活躍した。
日曜日のレアル・マドリード戦にぜひ出たい、痛くなんかないと、21日には練習に参加し、シュートを35本も打ったと、22日付の日刊スポーツ本紙が、パルマデマジョルカ発の益田一弘特派員電で伝えている。
詳細には、ぜひ、本紙をご購読頂きたい。
「痛くない」というが、痛くなくはないだろう(笑い)。
注射でしのげることは確かだが、それでいいのかどうか、スポーツ医学の面からは即答できない。完全にひざを屈伸させることができなければ、ひざは「故障中」であり、このまま痛みの感覚を麻痺させて実戦に出れば、さらに患部を痛め、しかもそれに(麻酔医のために)自分自身が気が付かないという事態もありうる。
日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンが「じっくり治せと、アドバイスを送った」そうだ。
こういうときに「じっくり治します」という優等生の回答をしない、できないのが大久保の魅力だ。
若い。
このままなんとなく、なんとかなってしまう可能性もある。
本来は手術して、さっと根本治療するのがベストで、大久保も「とりあえず試合はして、機を見て必要なら手術」ぐらいの計算はあるのだろう。
それでも、骨のかけらと痛みが残っているのに「出る、出る」というのは蛮勇だ。
馬鹿とはいわないが、それに近い。すばらしい(笑い)。
こういう若者が、少なくなっている。
馬鹿と言われても、こういうのを自分の息子や孫に欲しい。そう思うオヤジ世代も、きっと少なくないだろう。
大久保は反則も多いし、マナーもいいとはいえない時がある。代表戦でも、肝心なときに「決められない」(ように見える)ことが多かった。けれど、こういう個性、特に監督にも計算できない突破力、黒板の上に描く「システム図」には描き切れない爆発性独自運動は、サッカーの求める重要な能力の1つでもある。
いみじくも川淵キャプテン、大久保のスペイン・デビューでの快挙の報に「彼なんかは、日本よりあっちの方が向いているかも知れないね」とコメントしていた。褒め言葉であり、同時に「ああいうヤツを日本でもっと成長させられないのは、実に残念だ」という含みを感じさせるものだった。Jリーグの「課題」かもしれない。
むろん、優秀な選手の海外進出は大歓迎だが、野球の現状のように「レベルが低いからではなく、日本のプロ野球は本能を思い切り発揮させてくれない」といった観点から海外(大リーグ)に出て行く選手が多くなるなら、それは確かに残念だ。
小泉首相が施政方針演説の中で、「人間力の向上」に触れていた。「新しい時代を切り開く、心豊かでたくましい人材を守り育てていきたい」と。特に学力の低下、若者の働く意欲の衰退、食生活の不健全化、「知と創造の場」としての大学の機能の低下などが「気になる。だから重点的にこれらを充実したい」と述べていた。
国際的な観点から見ると、狭義の「日本の外交」については触れられていても、「これから世界をこうリードしたい」「こう呼びかけたい」といったグローバルな視点は示されず、その点は残念だった。アニメを礼賛してもスポーツに言及しなかったのは、腹立たしい(笑い)。それでも、「たくましさ」を前面に押し出すことで、子どもの顔色ばかりうかがうような最近の傾向に釘を刺したことは、賛成できる。
人生は厳しいもので、それはすでに子どもの時代から始まっている。地震や津波が無くとも、心は傷つき、打ちのめされる。1度だけ、このオヤジも赤点をとったことがある。胃腸カタルで数カ月、スポーツも何もできなかった記憶がある。親も「心のケア」をしてくれるどころか(そんな言葉すらなかった)さらに叱り、圧力をかけてきた。思えばそれは有り難いことだった。
今は軟弱オヤジだが、それでもあのとき、「だれにも助けてもらえなかった」「ケアしてもらえなかった」ことで少なくともそれまでよりは強くなったし、ここまでなんとか生き延びてきたのかとも思う。あるいは弱い立場の方に対して、不十分でもオヤジなりの気持ちを持つことができるようになったのかとも思う。
大久保の粗野ともいえる気迫は、賢くないかもしれないが、好ましい。いや、面白い。
ただ、実際には早く手術を受けて欲しい。比較的簡単な手術だと思う。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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