前回は、まん延していたクラブの赤字体質に対してどのようにメスを入れたのかをお話しさせていただきました。今回はクラブの財政面に関することを深掘りしてみたいと思います。


鍵となるのはフランスの将軍と言われたミシェル・プラティニです。ピッチ上に残したその奇跡は光り輝くものではありましたが、実は引退後も大きな功績を残しています。

そんな彼が築いたのは「ファイナンシャル・フェアプレー」というクラブ経営の健全化を計るという取り組みです。07年にUEFA会長に就任後、マネーゲームになりつつあったヨーロッパサッカー界に対してメスを入れる形になりました。

近年も問題視されますが、当時も選手の移籍金と選手に対する給与の高騰が問題になっておりました。目先の勝利を追求すべく収入以上の支出を戦力強化(移籍金や選手給与)などに注ぎ込み、この高騰が続くとこれが当然のようにクラブの経営を圧迫することになります。クラブのファイナンス面が健康でなくなると当然銀行などの金融機関からの借り入れなどは厳しくなり、同時に資金調達が難しくなります。そうなると当然選手の購入・確保よりも売却による利益確保を求められてしまい、当然戦力はダウンすることが考えられますし、同時にスポンサーが離れ、最終的にはファンが離れてしまいかねません。つまり負のスパイラルに陥るわけです。

当時のUEFAによるとヨーロッパの全クラブの約50%が赤字で、その割合は増え続けていたと聞きました。そのような中、リーマン・ショックを発端とした世界的な金融危機に陥った09年の理事会でファイナンス面の健全化を目的とした規則の導入が決定され、14年から正式に施行されたのがUEFAのファイナンシャル・フェアプレー規則(UEFA Financial Fair Play Regulations)。審査は過去3年間の合計で行われ、14-15シーズンまでは4500万ユーロ(約60億円弱)、17-18シーズンまでは3000万ユーロ(約40億円弱)の赤字までは許容されるが、18-19シーズン以降は赤字が許容されないというもので規則に違反した場合は、罰金やCL、ELの出場権剥奪、選手の登録人数の制限などが課せられるというものでした。

今シーズンはまさにその赤字が許容されないシーズンでもあります。あのチームが巨額な選手補強を見送っているのはもしかして・・・・。

このお話と全く同じ状況であったチームがスペインにはありました。そのチームはマラガCF。1904年に創設された歴史のあるチームです。

慢性的な資金不足に悩まされていたチームに2010年、カタールの王族による救世主が現れました。「バルセロナ、レアル・マドリードに次ぐスペインのビッグクラブになる」をという野望を掲げて選手補強を中心に投資し、11-12シーズンはリーグ戦4位となり、クラブ史上初のCL出場も獲得するなど大躍進を遂げました。

しかし裏ではクラブの資金繰りが悪化。結果、主力選手を手放さざるを得なくなり、気がつけばUEFAによって以後4シーズンのUEFA管轄のトーナメント戦参加禁止の処分がくだされ、ジ・エンド。最終的に1シーズンのみという形で軽減されましたが、目先の勝利にとらわれ、そしてそれがかなわず全てが崩れた事例となってしまいました。

「勝利に左右されない健全経営をいかに構築するか」。レアル・マドリードの大学院の授業に出てくるフットボールビジネスの鍵となる部分をこの歴史的な事象に垣間見ることができる気がします。

次回はこのファイナンシャルフェアプレーが各クラブ・リーグにどのような影響を及ぼすのかもう少し深掘りしていきたいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)