将来を嘱望される若者が“ようやく”Jリーグデビューを果たした。
J3のYSCC横浜(YS横浜)に所属するDFヴァンイヤーデン・ショーン、19歳。24日の第6節・ガイナーレ鳥取戦で3バックの中央を任された。
■父カナダ人、母日本人の藤沢出身
目立つ193センチの長身。海外からやってきた助っ人選手かと見間違うが、カナダ人の父、日本人の母を持ち、神奈川県藤沢市の出身。今季はJ2を戦っている横浜FCから育成型期限付き移籍で加入している。
高校3年時に横浜FCユースにいながら2種登録された。世代別の日本代表にも選出され、注目株だった。だが22年、そしてトップ昇格となった23年もリーグ戦の出場機会なし。YBCルヴァン・カップに1試合、天皇杯1試合の合計2試合だけしかなかった。
同じ横浜を拠点とするYSCCへの武者修行。ケガの影響もあって出遅れたが、開幕6試合目にしてホーム、ニッパツ三ツ沢のピッチに立つことができた。
縦パスが入ってくると、絶妙なタイミングでFWに体を当ててブロック。ボールがこぼれると長い足ですかさず拾う。
ビルドアップでも、テンポ良く正確にボールを左右に蹴っていく。さらには相手の間を割って入り、ボールを運ぶ。堂々としたプレーぶりだった。
試合はYS横浜が前半20分にFWオニエ・オゴチュクウのゴールで先制し、主導権を握った。追加点こそ奪えなかったが、攻守に安定。スキは見えなかった。終盤には左サイドから速いクロスを入れられたが、ここはヴァンイヤーデンが頭でクリアした。
今季初勝利がもう見えたか。誰もがそう思った矢先の後半47分。アディショナルタイムにCKから鳥取DF大城蛍にヘディングシュートを決められた。1-1のドロー。またしても初勝利はお預けとなった。
■倉貫監督「負けず嫌い」と太鼓判
ただ試合結果はともあれ、初出場ながら存在感を見せたヴァンイヤーデンに興味を覚えた。倉貫一毅監督曰く「負けず嫌い、サッカー選手に向いているなと思います」も太鼓判を押す。
言うまでもなく背が高く、長い手足という身体的特長がベースにある。そこへ「アジリティーもあるし、最後に足が伸びるので彼なりの守り方がある。長いパス(を蹴ること)も悪くないし、足元もある。素早く触れるわけではないが、自信満々にボールを持つし慌てない」(倉貫監督)。
試合後、ヴァンイヤーデンに話を聞いた。気持ちの強さが、言葉の随所に表れていた。
-今日は初先発でしたが、試合を振り返って
「自分はここに来るまで試合に出られてなくて、絶対に勝とうと強気持ちで臨みました。最後にコーナーで失点して、負けよりも悔しい失点でした。(失点した要因は)集中力じゃないですか、最後の最後。声かけなきゃいけないし、絶対に譲り合っちゃいけないし。1つのボールに死ぬ気でいかないといけない。自分のマークがニアに行ったので、ファーは厳しかったんですけど。次の試合は、そんなことないように初勝利を挙げたいです」
-落ち着いたプレーで、いろんなことができる印象を受けました
「ビルドアップというところは、自分の強みにしています。そこでどれだけアピールできるか、違いを見せないとスタメンは取れませんので。体は大きい方なので、球際のところで絶対に負けないというのも意識しています」
■球際は「絶対に負けない」と自信
-実際にJ3を戦ってみて手応えは?
「全然やれるなというのはある。J3じゃなくて、横浜FCから来ているので。横浜FCでも出場できる選手にならないといけないし、その先には海外もあるので。ここで満足していてはダメ、どんどん上を目指さないといけない。(2004年生まれで)同年代の高井幸大選手がフロンターレで活躍している。今も(U-23)代表に呼ばれていますけど、本当に高校では同じステージでやっていた仲間たちが、どんどんJ1でやっている。本当に危機感を持って、このチームに来たからには腹くくって、絶対に成長したい。強い思いを持って試合に出られるように」
-メンタルの強さも持ち味ですね
「球際を見てもらったら分かるんですけど、練習から絶対に負けない思いでやっています。そこを見てもらえたらうれしいです。失点とか絡むと気持ちが落ちる選手が多いと思いますけど、自分はそんな落ちることがなくて。逆にそこで選手の価値をセンターバックだと示さないといけない。失点とか絡んだ後の立ち振る舞いを見てもらえたら、そんなに波がない選手だと言われる。あんまり、気持ちが折れない」
-テレビで見るような人とやっても気後れはしない?
「もう全然ですね。そこはメンタルなんで。自分が一番だぞ、というモチベーションでいつもいます。そこはあまりリスペクトしすぎないようにやっている」
父はカナダ出身だが、祖父母はオランダ人。「ヴァンイヤーデン」という名前もその名残だ。
父はアイスホッケーをやっていた。クラブの幹部によると、おじは世界最高峰のNHLでプレーしていた元プロだという。アスリートとしてのスペックの高さはそんな背景もあってのものだった。
■グラウンドには銭が落ちている
オランダ系ゆえに欧州への関心が人一倍強い。欧州サッカー好きでプレミアリーグやレアル・マドリードの試合はよく見ている。
「将来はプレミアリーグに行きたいです。英語がしゃべれるので」
誰と対戦してみたいですか? そう問うとあの大物選手の名前が挙がった。
「強ければ強いほどいい。だからハーランドです。まだまだ全然勝てないと思いますけど、FWとして世界のトップだと思うので。近づけるように頑張りたいです」
アーリング・ハーランド。説明するまでもないだろうが、今や世界最強のマンチェスター・シティーで不動のエースとなった23歳の怪物ストライカー。身長は195センチあり、スピード、パワー、テクニック、戦術眼、そして決定力とどれを取っても超一流の選手だ。
-仮にハーランドと対戦したら、どう対応しますか?
「収めたりできるタイプなので、球際のところに。収める時にちょっと当てるだけでファーストタッチが乱れる。そういうところは、強い選手とか自分は(ボールを)取りに行くのでなくて体を当てるだけ。そうしたら自然とファーストタッチが乱れる。そういうところで狙って取りたい」
-今日の試合でもしっかり相手に体を当てていた
「そうですね。今日は絶対に背後はやらせないという思いだったので、足元に来た時はガツンと行く感じだった」
物おじしない。取材に対しても自分の見解をきちんと口にする。あらためて先人から引き継ぐルーツというものを感じ入った。
かつてプロ野球の名将は「グラウンドには銭(ぜに)が落ちている」と表現した。「グラゼニ」。プロは試合に出てナンボ、という観念だ。
カテゴリーを落として武者修行に来たヴァンイヤーデンにとって、本当の意味でプロとしてのスタートを切ったと言えそうだ。ここからどうはい上がっていくのか、可能性は無限大。ニッパツ三ツ沢のピッチには、夢の欧州へとつながる階段も見えている。【佐藤隆志】