10月17日。J2磐田の練習場、ヤマハ大久保グラウンドの雰囲気は、いつもと少し違っていた。クラブハウスから次々と出て来る選手やスタッフは、みんな同じTシャツ姿。元日本代表MFで、磐田の黄金期を築いた奥大介さん(享年38)の一周忌を迎えた。

 練習前に、奥さんが磐田時代につけていた背番号「29」、そして「8」の当時のユニホームを手に集合写真を撮影。全員で黙とうをする際には、一緒に黄金期を築いた名波浩監督(42)が「サッカー界にとって、大きな死だった。この1年は早かった。自分が誓わなければいけないことを考えて、黙とうしよう」と呼びかけた。

 練習後の名波監督の言葉が、印象に残った。一周忌を追悼したことについて「大介を思い起こす、きっかけになってくれればいい」。奥さんが所属していたチームだけでなく、当時の日本代表を応援していたサポーターや、奥さんにかかわったことのあるすべての人に伝えたい思いなのだと感じた。ともに戦った仲間への、強い思いが垣間見えた瞬間だった。

 現在の磐田に、現役時代の奥さんとともに戦った選手は残念ながら所属していない。それでも、MF太田吉彰(32)は磐田ユース時代に、ともに練習したことがある。「ユース時代はよく見ていた。素晴らしいテクニックのある選手で、若手の憧れだった」と振り返った。また、DF伊野波雅彦(30)は鹿児島実時代、横浜に練習参加をした際に奥さんと出会ったという。「話しかけてくれて、シャツをくれたり優しくしてもらった」と思い出していた。

 一周忌を迎え、選手たちはJ1復帰への思いをあらためて強くした。太田は「奥さんのためにも、全力ですべてをかけたい」と話した。奥さんに会ったことのない若手選手たちにとっても、一周忌は貴重な経験になったに違いない。きっと天国の奥さんも願っているJ1復帰へ、J2は佳境を迎える。【保坂恭子】


 ◆保坂恭子(ほさか・のりこ)1987年(昭62)6月23日、山梨県生まれ。埼玉県育ち。10年入社。サッカーや五輪スポーツ取材を経て、今年5月から静岡支局に異動しJ2磐田担当。奥さんの一周忌の翌日、磐田はホーム札幌戦で3-0と快勝。ヤマハスタジアムは快晴で、あの歓声と熱気は奥さんに届いているような気がした。