満員のスタンドが、ゴン中山のカムバック劇を歓迎していた。9月、元日本代表FW中山雅史(48)がJFLアスルクラロ沼津に加入し、話題を呼んだ。直後に月9ドラマ内で、せりふとして復帰のことが引用されていたから、サッカー界だけにとどまらず、世間を驚かせた「現役復帰」だったのだと思う。

 当初、復帰戦の目標としていた10月3日ソニー仙台戦では、静岡・愛鷹競技場で一目見ようと、8337人が来場。メーンスタンドは完全に埋まり、芝生席のバックスタンド、ゴール裏まで人が流れ込んでいた。それまでの最多入場者数が3000人に及ばないことを考えると、絶大な人気ぶりは明白だ。その試合では、コンディションなどを考慮され、メンバー入りこそしなかったが、試合後に控え組として練習に参加。リーグ戦の試合が終わってもスタンドには観客が残り見守った。

 両膝の状態を入念に確認しながらの練習。走っては確かめ、また走っては確かめた。個人トレーナーに診てもらうため、ピッチから一時離れたときだ。「中山~頑張れよ~!」と絶叫する男性ファンの声。一瞬、空気は静まりかえった。真剣に練習をしている最中なだけに、聞き過ごしてもおかしくない状況だったと思う。それでもすぐさま立ち上がり、何でもないかのように声の主に向かって、無言で足をブンブン振り回し、観客を沸かせる“神対応”を見せた。場の空気を読み、度が過ぎず、らしさ十分な返しは、ゴン中山だからこそできる芸当だ。

 今季公式戦での現役復帰こそ、かなわなかった。だが練習では、炎のストライカーと言われたゴールへの嗅覚は、今も変わらない。ジャンプやキックの強度に制限がかかる中でも、シュート練習でクロスへ果敢に飛び込む姿は、さすがの迫力。「DFがいないから」と言うが、完全に体に染みついた動きだった。

 歴代1位だったJ1通算得点157点は、広島FW佐藤寿人(34)に並ばれた。さらに1点差で川崎FのFW大久保嘉人(33)が迫る。エディオンスタジアムのスタンドで、佐藤のゴールを見届け「引き離していきたいですね。寿人と嘉人、日本のストライカーに刺激を受けましたね。僕もゴールを決めたい。情熱を目覚めさせてくれた」と話したという。J3入りを目指すアスルクラロ沼津との来季契約は、まだ決まっていない。しかし後輩たちからの突き上げに、心も体も燃えたぎらせる言葉を聞き、早くもゴンゴールを期待してしまう。【栗田成芳】


 ◆栗田成芳(くりた・しげよし)1981年(昭56)12月24日生まれ。サッカーに熱中し、愛知・熱田高-筑波大を経て、04年にドイツへ渡って4部リーグでプレー。07年入社後、スポーツ部に配属。静岡支局を経てスポーツ部に帰任。今季J担当クラブは東京と甲府。昨夏のブラジル大会でW杯初取材。10月に代表戦取材に訪れたイラン・テヘランで、湿度10%台、標高約1200メートルの環境下、無謀にもランニングを行い、喉の渇きと低酸素で倒れそうになる。