東京のシーズンが幕を下ろした。8強入りしていた天皇杯準々決勝で広島に延長戦の末敗れ、リーグ戦での年間順位はクラブ最高位の4位。天皇杯、ナビスコ杯はともにベスト8での成績。来季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフからの出場権を獲得したものの、東京というクラブが「勝つこと」にこだわって指揮を任されたフィッカデンティ監督の2年間は、無冠で終えた。

 この2年間、昨季の14戦連続不敗記録をつくり、今季は最多勝ち点。最後の試合で「ベストのチームを残して行く」と語った同監督は、ピッチ内外で一定の規律を求めた。試合の2日前から門限を設け、午後11時以降は外出禁止にした。理由は当然、試合にいい準備をするため。そしてピッチ内では、威厳を保った。

 今季開幕前のキャンプでのことだ。紅白戦を行っていた際、ある選手がレギュラー組から交代を指示されたときだった。着ていたビブスを脱ぎ、代わる選手に渡すため投げたが、相手に届かずに地面に落ちた。しかし、このことを同監督は「地面に投げつけた」ととらえられた。同選手は「急いで代わろうと思って投げただけ」と釈明したが、全体練習から外され参加も許されなかった。クラブ幹部もまじえ話し合いの場を設けた末、数日で合流した。

 それくらい指揮官として譲れないところだったのだろう。それが正しいのか正しくないかの議論ではなく、そういった振る舞いがチームをつくっていく上でプラスに働くのかが、重要だと思う。正直、レギュラー組から外されて悔しくない選手がいるはずがない。監督だって、自分の指示に不満をあらわにしている姿を目の当たりにしたら、毅然(きぜん)とした態度を示す。どちらも悪いとは思えないが、ボタンの掛け違いはこういうところから始まる。

 チームが勝ち続けているときは、雰囲気も良く「やっていることは間違っていない」とみんなが胸を張れる。お互いに信頼し合える。しかし、結果が出ずに「これでいいのか?」と疑問に思ったとき、いい方向へチームとして向いて進むことができるのか。長いシーズン、山もあれば谷もある。そのかじ取り役が、監督なのか、コーチなのか、それとも主将、ベテラン、中堅、若手なのかは、チームそれぞれ違うだろう。そしてクラブの戦力を整えるフロントと現場は一枚岩になれているのか。初優勝を目指すチームは、どこも模索を繰り返すしかない。

 歴代優勝チームの9チームのうち、6チームが2回以上。4チームが2年以内に2度目の優勝を遂げている。優勝という大きな自信は、「常勝」へとつながるのだ。試合の勝ち方と同時に、チームの作り方を身をもって知ることができるのは、優勝という経験しかない。

 来季のJ1も今季以上に混戦が予想される。城福浩新監督のもと、東京が初優勝に手が届くのか。その過程もじっくりと見てみたい。【栗田成芳】

 ◆栗田成芳(くりた・しげよし)1981年(昭56)12月24日生まれ。サッカーに熱中し、愛知・熱田高-筑波大を経て、04年にドイツへ渡って4部リーグでプレー。07年入社後、スポーツ部に配属。静岡支局を経てスポーツ部に帰任。今季J担当クラブは東京と甲府。昨夏のブラジル大会でW杯初取材。10月に代表戦取材に訪れたイラン・テヘランで、湿度10%台、標高約1200メートルの環境下、無謀にもランニングを行い、喉の渇きと低酸素で倒れそうになる。