「そろそろ『ミスター・アルビレックス』を襲名してもいいんじゃない?」。そう話を振った。すると「いやいや、まだまだですよ」と苦笑い。

 答えの主は、新潟のDF大野和成(26)。チームでは今季、副主将を務めている。地元出身でユースからトップにチーム昇格。今季は開幕から第2ステージ第4節終了時で、チームで唯ひとり全21試合でフル出場。センターバックの定位置を手にしている。

 愛媛、湘南に期限付き移籍していた11年途中から13年もレギュラーだった。ただ、新潟で定位置を獲得したのは25試合に出場して19試合フル出場だった昨季から。プロ9年目の今季はその座を確固たるものにした。

 それでも「試合結果が伴っていないので。試合に出るだけでは意味がないです。出ている責任がありますから」。新潟は年間順位15位。ピッチに立つからには、まずチームの勝利に貢献しなければならない。それが十分に果たせていないことが、大野はもどかしい。

 新潟出身選手は遅咲きが多い。00年から14年途中まで在籍したMF本間勲(35=栃木)がスタメンに定着したのはプロ8年目の07年。05年から14年のMF田中亜土夢(28=HJKヘルシンキ)は7年目の11年だった。かつての「ミスター・アルビレックス」たちも花が咲くまで時間がかかった。

 ただ、チームの顔と認められたとき、彼らは行動を背中で見せた。本間は12年、田中は14年の残留争いで、ぶれずに黙々と練習に取り組み、チームメートに妥協やあきらめを許さない雰囲気をつくった。

 「試合に出られない選手は本当に切ない。懸命にモチベーションを高めて、切り替えて練習をする。僕はその気持ちが分かる。試合に出たら、出られない選手を納得させないと」。そう話す大野には、先人2人と同じメンタルが備わりつつある。練習前のウオーミングアップでは最前列に姿をみせている。若手に声をかける場面も増えた。

 新潟が現在の難局を脱したとき、大野を「ミスター」と呼ぶ雰囲気が、自然とできていることを期待している。



 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)1月12日、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。新潟はJ2時代から取材。サッカー以外にはbj、Wリーグのバスケット、高校スポーツなど担当。