<高校サッカー:市船橋2-1大分>◇7日◇準決勝◇国立

 自分の地元には負けられない。市船橋(千葉)が大分を下し7大会ぶり、四日市中央工(三重)は尚志(福島)を下し20大会ぶりの決勝に駒を進めた。市船橋の2点目を決めたFW和泉竜司主将(3年)は三重県四日市出身。四日市中央工の先制点を決めたMF国吉祐介主将(3年)は、逆に千葉県出身。90回の歴史で初の対戦となる名門校同士の決勝(9日、国立)は、期せずして「敵地出身主将対決」となった。

 ゴールは「気持ち」だった。市船橋が1点をリードして迎えた後半11分。左サイドのカウンターから中央を経由したパスが和泉に渡る。パスは少しずれたがトラップして持ち直すと、相手のスライディングを冷静に見極め角度のない所から右足でゴールを決めた。2試合ゴールがなく悔しい思いをしていた主将は「気持ちを込めて打ったから入ったんだと思う」と笑みがこぼれた。自分の気持ちと、チーム全員の気持ちが1つになっていた。

 四日市出身。中学時代は地元のクラブでプレーしていたものの、四日市中央工からは声が掛からなかった。和泉はクラブの先輩が進学していた市船橋を選択した。親元を離れての寮生活にも動じなかった。この日スタンドで息子の勇姿を見届けた母洋子さん(40)は「共働きだったのでひとりで出来るように自然となったのでしょう」と話す。姉奈々さん(19)と一緒に食事の準備をするなど、幼いころから“自立”していたという。

 和泉が「ホームシックにはなったことがないです」と話すのも仲間がいたから。昨年2月に主将を言い渡されたときは驚いた。どの世代でも主将経験がないし、多くを語らないため向いているとは思えなかったからだ。それでも責任を果たすべく、取り組んだ。「日々の生活がプレーに出るから、そういったところを注意するようにしていました。今では信頼できる仲間です」と胸を張る。昨年9月に疲労骨折したDF伊達ら、メンバーに入れなかった3年生の思いを込めたキャプテンマークを巻く。

 観戦を予定していたOBの柏FW北嶋はキャンセルとなり、同校のチアリーディング部もいつもの半分のメンバーだけだった。同時間帯に東京体育館で行われていた高校バレーの応援があったからだ。もちろんそれでも「頑張ってくれる人のためにも結果で応えたい」と感謝した。

 決勝の相手が出身地の学校とは、運命のいたずらか。和泉は「四日市からこっちに来たので負けられない。圧倒したい」と言い切った。02年度の81回大会以来となる5度目の優勝へ。最後まで「気持ち」を見せつける。【加納慎也】