<高校サッカー:四日市中央工6-1尚志>◇7日◇準決勝◇国立

 諦めない戦いを続けた尚志(福島)が力尽きた。20年ぶりの優勝を狙う四日市中央工(三重)に敗退。差はついたが、0-4の後半37分にMF山岸祐也(3年)が意地のゴールで一矢報いた。「県民に元気を与える」ため、東日本大震災、原発事故を乗り越えて県勢初4強に輝いた。

 国立の冬空に無情のホイッスルが響くと、尚志イレブンが膝から崩れ落ちた。仲村浩二監督(39)は顔の前で手を合わせて硬直。死力を尽くしながら報われなかった選手は、四日市中央工が勝利インタビューを受けるお立ち台の後ろに整列し、悔し涙を流し続けた。

 震災後、何度口にしたか分からない「諦めない」。言葉にうそはなかった。4点を追う残り8分。MF金田一樹(3年)のロングパスを味方が落とす。司令塔山岸が走り込み、右足で豪快に決めた。「震災前なら、諦めて完封負けしていたはず」。仲村監督も「希望の1点をもぎ取ることができた」と粘りを褒めた。

 3・11。選手は大規模余震が続く中、寮の食堂で身を寄せて一夜を明かした。12日、まだ原発事故を知らない選手は、無邪気に鬼ごっこをしていた。その後、選手が半壊した校舎のガレキ撤去を手伝っていると、情報を得た教員が叫びながら走ってきた。「校舎に入れぇ!

 窓を閉めるんだ!」。

 15日。仲村監督は関東出身の教え子を戻すことにした。「(福島に住む)両親を置いて逃げられるわけがない」。そう泣き叫ぶ妻奈津江さんと2歳の長女こなつちゃんを強引にバスに押し込んだ。「俺は、何があっても選手を送り返す義務がある」。埼玉や千葉までの13時間、ハンドルを握った。

 27日に千葉・習志野高で再集合したイレブンは笑顔にあふれていた。「みんな尚志に戻ってこないんじゃないかと思っていた。国立まで来られて感慨深い」と仲村監督。最初は怒鳴り合い、つかみ合っていた選手も、かつてないほど一丸となった。学校には「勇気をもらった」というファクスやメールが、創部14年目で初めて届くようになった。

 大会前、三瓶陽(みなみ)主将(3年)は、キャプテンマークに3年生全員の名前と「絆」の文字を書いた。「今年ほど人のつながりを感じた年はないので」。激動の1年を県勢初の4強で締めくくり、記録にも記憶にも残る戦いをした。役目を終えたキャプテンマーク。三瓶はひと息はいて左腕から外し、国立のロッカールームに静かに置いた。【木下淳】