<ロンドン五輪アジア最終予選:日本2-0バーレーン>◇C組◇14日◇国立>
MF扇原貴宏(20)が重苦しい空気を一掃した。後半10分。FW原口のクロスに突進する。右足の素早い振りで合わせたボールは、弾丸となって相手GKの左を擦り抜け、待望の先制点になった。「(原口)元気が仕掛けて、前にスペースがあったので思い切り飛び込み、思い切り蹴りました」。満面の笑みで仲間と抱き合った。
この約5分前、関東地方で地震が発生。国立のある東京・新宿区は震度3の揺れを観測したが、扇原は「気付かなかった」と、試合に集中していた。
「チームが勝って、五輪に行く報告ができることが大事なんで」。左ひざ痛を抱えながら、予選終盤でレギュラーの座をつかんだ男だ。「プロになってからは記憶にない」という利き足とは逆の右足での一撃。一進一退が続いた前半の微妙な雰囲気も払拭(ふっしょく)するゴールで、日本国民に吉報を届けた。
ゴールを決めた瞬間、両手の人さし指を空に突き上げた。天国に五輪出場を伝えたい人が2人。1人は、昨年7月19日に病死した祖父の土井亀太郎さん(享年85)。「プロでの活躍を楽しみにしてくれていたんで」。もう1人は、小学時代にプレーした堺北FC時代の監督、米瀬正之さん。昨年5月に脳出血で46歳で他界した。「あの人に出会ってなかったらプロになれていなかった」と慕う存在で、同年5月3日のACLアレマ戦でのプロデビューを直接報告する前にこの世を去っていた。「次は墓前でいい報告がしたい」と、ひそかに心に誓っていた。
「苦しい時期もみんなで崩れずに戦えたのが良かった。今日もぶれずにやれた」。ロンドンでも日本国民に、そして天国の大切な人に、その勇姿を見せる。【由本裕貴】

