広島FW佐藤寿人(33)が、J1通算最多得点記録単独トップの158点目を挙げた。前半43分のMF柴崎のシュートが体に当たって入る“珍ゴール”。場内は柴崎の得点としたまま1-1で名古屋に引き分け。終了後のアナウンスで得点者を訂正するドタバタだった。前日5日に川崎FのFW大久保が157点に到達し、元日本代表FWの中山雅史(現JFLアスルクラロ沼津)と3人がトップで並んだばかりだった。

 2万7061人で埋まった大観衆が、歴史に刻まれる新記録の瞬間を見逃した。“事件”は1点を追う前半43分。MFミキッチのクロスを、柴崎がダイレクトで合わせた。同点弾が決まると、電光掲示板で得点者を柴崎とアナウンス。そのまま90分が終了した。だが柴崎のシュートの瞬間、避けようとした佐藤の体をかすめていた。アウェー戦だったことが影響し、新記録樹立を祝う演出はなく、場内で得点者が訂正されたのは試合終了後だった。

 ヒーローは恥ずかしそうに明かした。「僕は、自分のゴールになると思ってました。でもハーフタイムに、点の話が(仲間から)振られなかったから『これは?』とは思いましたけど…」。一方の森保監督は「変更を知ったのは(佐藤が)インタビューを受けているのを見てですね」と説明。Jリーグ側はハーフタイムに映像を確認し、主審の了承を得た上で得点者を訂正したが、スコアボードには表示されなかった。結局、観衆だけでなく、指揮官ですら大記録達成を知ったのは得点から1時間以上が過ぎてからだった。

 佐藤 (J1通算)50点目を決めた時もここ。僕の顔面に当たったボールが(後で)訂正になった。今日も正直、避けようとして体に当たった。豊田スタジアムは、無理やりゴールにする力があるのかな。本当は(大久保)嘉人みたいにカッコいいゴールを決めたかったです。

 前日5日に川崎FのFW大久保が豪快なミドル弾を決め、中山と3人がトップタイで並んだ。わずか1日で中山が08年に達成して以来となる新記録が生まれた。佐藤は2日に第3子となる三男が誕生したばかりで「妻に揺りかごダンスを見てもらいたかった」と笑顔。背中を追った大先輩へ、永遠のライバルへ、そして愛する3人の息子へ贈る得点でもあった。

 日本人最高の点取り屋も、代表では不遇の時を経験。中山と大久保はW杯で活躍したが、佐藤にW杯出場歴はない。泥臭い男が決めた泥臭い1発。脚光とは無縁の男にスポットライトが照らされた。【益子浩一】

 ◆佐藤の珍ゴール 07年4月7日の名古屋戦(豊田ス)でJ1通算50得点。ゴール前の混戦からDF戸田が触った直後に顔で押し込んだ。だが、場内アナウンスは戸田のゴール。「あれは僕の得点。訂正されるはず」。主張どおりに佐藤の得点に。14年10月26日の清水戦(アイスタ)ではGKがはじいたボールを腹で決めて11年連続2桁得点を達成。「どの部位で決めたかわからない(笑い)」。