J3の盛岡がJ1仙台を5-2で下す大金星を挙げた。ベストメンバーで臨んできた仙台を攻守にわたって圧倒。勝利の瞬間、盛岡イレブン、サポーターはこれ以上ない歓喜に酔いしれた。2日には、チームを運営する「いわてアスリートクラブ」前副社長が会社資金約2400万円を流用するなどの不正を公表。今後、Jリーグから制裁を受ける可能性もある。そんな暗いチーム状況で臨んだみそぎの一戦で大勝を収めた。岩手県勢の3回戦進出は史上初となる。

 大きな壁をひとつ崩した。東北6県で唯一のJ1クラブを撃破し、盛岡イレブンとサポーターは歓喜に沸いた。5得点を奪っての大勝。先制後、一時は同点とされ後半にも失点はしたが、最後まで勢いは止まらなかった。

 試合終了の笛がユアスタに鳴り響くと、今季から指揮を執る神川明彦監督(50)は両拳を握って雄たけびを上げ、イレブンは抱き合った。神川監督は「我々のようなクラブに、天皇杯は勇気を与えてくれ力を引き出させてくれた」と満面の笑みだった。

 熱血漢の秘蔵っ子が大暴れした。2ゴールを決めたFW梅内和磨(25)は、神川監督が昨季まで監督として長年勤めた明大サッカー部の出身。在学中から「ずっとAチームでプレーし、走れるので。私のチームにはなくてはならない存在」と卒業後にJ3のYS横浜でプレーしていた梅内を、監督就任が決まった直後に自ら電話で「来てくれないか」と口説き落とした選手だった。開幕から起用を続けると、この日、大車輪の活躍を見せた。

 梅内は一時追いつかれた1-1の前半26分に勝ち越し弾を沈め、3-1の後半19分にも「縦に刺す」ショートカウンターでネットを揺らした。これには指揮官も「長い付き合いですが、今までで一番よかった。良い仕事をしてくれた」と目を細めた。梅内は「まずひとつ、J1チームに勝つという目標を達成できた」と笑顔で話した。

 前副社長の不正行為を2日に公表したばかりだが「悔いなき戦いをしよう」(神川監督)と話し合い、団結した。持てる力を出し切っての大金星で、岩手初の3回戦へ。梅内は「試合が楽しみだった。勝てたことが本当にうれしい」。盛岡に、大きな自信が備わった。【成田光季】