川崎FのFW大久保嘉人(34)が、来季移籍する東京へ得点能力を詰め込んだ1発を見舞った。前半20分に右ひざで先制点を奪って主導権をとり、2-1で退けた。天皇杯4戦連発5得点のエースが、9大会ぶりの準決勝へ導いた。今季限りで退任する風間監督とともに、最高の置き土産まであと2勝とした。

 これがJ1最多171得点の奪取力だ。前半20分、大久保が先制点を決めた。DF田坂の右からセンタリングに飛び込み、右ひざを当ててネットを揺らした。マークについたDF室屋の前に一瞬で体を滑り込ませた時点で、勝負は決した。「背が小さいので先に、触ろうと。点を取れて試合にも勝てて良かった」。満足そうな表情を浮かべた。

 今季限りで川崎Fを去り、新天地を東京とすると明言している。準々決勝での対戦は「あんまり意識はしてない」と平静を装っていたものの、自らのゴールで勝利に貢献した試合後は「俺が点を決めなかったら八百長でしょ」と豪快に笑い飛ばした。

 風間監督も今季限りで退任し、来季J2の名古屋を率いることが決定している。大久保は「タイトルを取るのは天皇杯しかない」と、4年間名乗った「カワサキのヨシト」として最後の仕事にこだわる。リーグ戦は年間3位に終わり、風間監督も「トップに立っておかしくない力はある。サポーターの夢をかなえたい」と、今大会に懸けている。

 指揮官と同じ思いを大久保は結果で表している。初戦の2回戦から4試合連発の5得点。チャンピオンシップ準決勝鹿島戦から中1カ月と時間が空き、「前半で足がつるんじゃないかと思った」が89分間、戦い抜いた。

 無冠が続く川崎Fにおいて、今季を「忘れたいシーズン」と言った。だが、あと2勝で、忘れられない1年に書き換えられるはずだ。勝敗に関係なくチームを叱咤(しった)してきたエースは、珍しく「今日が一番だった。面白かったし、これがフロンターレ」と胸を張った。目標を達成するまで最後まで走り続ける。【成田光季】