<J1:広島1-1清水>◇第1節◇6日◇広島ビ

 開幕戦で「小さな巨人」が躍動した。J1清水は敵地で広島と対戦。FW大前元紀(20)のリーグ初ゴールで勝ち点1をもぎとった。試合開始3分、PKから先制を許したが、後半ロスタイムにMF藤本淳吾(25)のFKを途中出場の大前が頭で合わせて同点とした。次戦のホーム開幕(山形戦)につながる、まずまずのスタートを切った。

 身長166センチの大前が決めた。何本ものクロスをことごとくはね返した相手守備陣の「高い壁」を、両チームの登録メンバー36人の中でもっとも小柄なストライカーが撃ち破った。「点を取れて安心したし、素直にうれしい。勝てたらもっとよかったですけどね」。チームを救った、自身のうれしいプロ初ゴールに、はにかみながら喜んだ。

 1点リードを許したまま迎えた後半ロスタイム。右サイドからのMF藤本のFKを頭で合わせた。「自分のことを『マークしろ』という声は一切、聞こえなかった。誰もマークにこないから『しれっと』してました。たぶん、ぼくがいることに気づいてなかったんじゃないのかな?」。大型選手がひしめくゴール前の密集地帯で大前だけがノーマークだった。キッカーのMF藤本でさえ「スペースに落とすイメージで蹴った。まさか、元紀がいるとは思わなかった」と驚いた。

 期待にきっちり応えた一撃だった。1点を先制されてから、攻め込んではいたが相手ゴールを脅かす効果的な攻撃はできずにいた。前後半で13本のシュートを放ちながら決定機といえるシーンは、ほとんど生み出せない。そんな重苦しい状況を打破すべく、長谷川監督は後半36分に「兵働も悪くなかったけど、シューターを入れたかった」と大前を投入。「思い切ってやって、1点取ってこい!」と送り出した“切り札”が大仕事をやってのけ「交代メンバーが点を取ってくれたのは本当にうれしい。よくやってくれたと思う」と目を細めた。

 08年全国高校選手権の得点王に輝くなど、高校時代は、まさにスーパースターだった大前にとってプロ入り後2年間は、悔しさと屈辱の繰り返しだった。昨季、ナビスコ杯で公式戦初ゴールを決めたが、次戦のメンバーから外れた。物思いにふけりながら練習後に1人でランニングに励む日々が続いたが、「プロの壁」を乗り越え、ついに念願のリーグ戦初ゴールにたどり着いた。「まだ勝ってない。勝った試合で点を取りたい」。劇的な同点弾で歓喜に沸くイレブンの輪の中で、「点取り屋」はまだまだ大きくなる。【為田聡史】