名古屋の楢崎正剛主将(34)が、GKとしてJリーグ史上初の年間最優秀選手賞(MVP)を受賞した。2010Jリーグアウォーズ(年間表彰式)が6日、都内ホテルで開催され、リーグ創設18年目で初Vの原動力となった名古屋の守護神が、世界でも珍しいGKのMVPに輝いた。

 ついに主役になった。目立つことが嫌いで控えめ、口べたな楢崎が最高の栄誉を手に入れた。まるで、自分のことのように喜ぶ闘莉王にうながされ舞台の中央へ。34歳。シワが刻まれた味のある顔に笑みを浮かべ、胸を張りスピーチした。

 楢崎

 GKのボクが受賞させてもらうことに価値がある。たまたまボクだったけど、すべてのGKの励みになる。その意味でもうれしい。

 派手なFWや、得点に絡むMFとは違う。GKは、失点シーンで目立ってしまう損な役回りだ。そんなGKとしても、同世代の川口(磐田)と比較し「地味」な存在だった。だが「GKはチームのボス」と振る舞いと背中で、チームを創設18年目の悲願初Vへと導いた。DF闘莉王も「ナラさんのMVPは、心が(口から)出てくるくらいうれしいよ」と声をうわずらせた。

 データも圧倒的だ。今季、チームは多くのシュートを浴びた。しかし驚異的セーブを連発し救った。楢崎からゴールを奪うのに必要だったシュート数はリーグ最多の平均13・1本。日本で最も難易度が高い「ゴール」だった。

 GKのリーグMVPは世界でも珍しく、世界最優秀選手に贈られるバロンドール(当時は欧州最優秀選手賞)でのGK受賞は、63年のレフ・ヤシンのみ。

 その異例のGK受賞は、前例のない形で刻まれる可能性が出てきた。東京のサッカーミュージアムには、歴代MVPの足形が残されている。しかし「手」で栄誉をつかみ取った楢崎は、初の「手形」を残すプランが検討されている。南アフリカW杯後に代表からは退いた。活躍の場はJに限られるがプレーぶりはすごみを増している。守護神の「神の手」がJリーグ史にしっかりと刻まれた。【八反誠】