<J1:東京0-1大宮>◇第12節◇6日◇味スタ

 あれは空耳か、それとも神の声か。

 大宮FW長谷川悠(26)が東京戦の試合終了間際に決勝ゴールを決め、8試合ぶりに勝利した。後半ロスタイム3分、GK江角のキックが東京ゴールめがけて大きく上がる。反応した長谷川に立ちはだかったのは東京DF森重と吉本。森重を背に競り合おうとした、そのとき長谷川の耳に入ってきた。

 「流せ!」

 長谷川は「吉本のコーチングが聞こえた。ボールも大きかったので、じゃあセカンドボールに反応しようと思った」。背負っている森重が競り合ってこないと判断し、裏に抜け出す。すると、大きくバウンドしたボールがちょうど足元へ。カバーに来た吉本と交錯しながらも、右足でゴールネットを揺らした。

 本拠NACK5はサッカー専用スタジアム。ピッチから観客席が近く、選手の声もかき消される。だが味スタはピッチと観客席が遠く、長谷川にとっては聞き取りやすかった。この日は2万3722人を収容も、敵のヒントを聞き逃さず、ゴールへ突っ走った。

 ただ、吉本は「絶対言ってない。『触れ』とは言っても『流せ』なんて、その状況で言うはずがない」。最後方にいたGK権田も「僕は言ってません」と完全否定。果たして声の主は誰なのか?

 長谷川は「サッカー人生の中で、敵の声を聞いて得点したことは…記憶にないですね」と言った。神の声、空耳、それとも…。誰が言ったかは分からないが、その声が大宮に貴重な勝利をもたらしたことは、間違いない。【桑原亮】

 ▼GKのアシスト

 大宮の江角が記録。J1史上16人目(25度目)。0-0の後半ロスタイムにFW長谷川の決勝点をアシストしたが、「GKの決勝アシスト」は、96年5月1日磐田戦の楢崎(当時横浜F)、13年11月10日東京戦のキム・ジンヒョン(C大阪)に次いで3人目。後半ロスタイムに記録したのは、今回の江角が初めて。96年の楢崎はMF前園、13年のキムはFW柿谷の得点をアシストした。ちなみにJ1のGKゴールは過去に1点だけ。浦和の田北が96年11月9日の横浜F戦でPKで記録。