<J2:松本2-1富山>◇第38節◇26日◇松本

 松本が初のJ1昇格に王手をかけた。最下位富山の粘りに苦しんだが、後半17分にDF大久保裕樹(30)のヘッドで先制。その後1点を加え、相手の反撃を1点に抑えて逃げ切った。2位松本は勝ち点74とし、京都と引き分けた3位磐田との差を10に広げた。11月1日のアウェー福岡戦に勝てば、3試合を残して自動昇格の2位が確定。日本屈指のサポーターとともに、信州の地域密着クラブが初めてJ1に挑む。

 大久保のゴールが決まった瞬間、サポーターが一斉に立ち上がった。ゴール裏だけではない。メインもバックも、ほぼ全員が立って手にしたタオルマフラーを振り回す。隣接の松本空港を発着する飛行機の轟音をかき消し、スタンド背後の北アルプスまで届く歓声。夢のJ1が近づいた。

 負ければJ3降格ピンチの富山を相手に苦しんだ。攻め手が見つからず、あわや失点の場面もあった。チームを救ったのは、この日1万4000人入ったスタンドのサポーター。休むことなくチャント(応援コール)を繰り返し、選手を鼓舞した。「苦しい時に声援を送ってくれたサポーターに感謝します」。試合後、まず反町監督は言った。

 今季平均観客数1万2000人あまり。J2では圧倒的な数字だ。クラブの目標は「(ホームスタジアムの呼称)アルウィンを満員にする」こと。これまで「J1昇格」を掲げたことはない。クラブの八木誠取締役(49)は「もちろん昇格すればうれしいが、サポーターが集まってくれることの方が大切」と言い切る。他にプロスポーツなど人が集まる場がない環境、長野市への対抗意識など強い郷土愛…、観客数の多さにはさまざまな理由が考えられるが、市民がJ1昇格を支えているのは間違いない。

 「数字や勝ち点は関係ない。目の前の試合に勝つだけ」。3年前に亡くなった故松田直樹氏の背番号3をつけるMF田中は言った。反町監督は「私が上げるんじゃない。松本が上がるんです」と、クラブとサポーターに敬意を表した。11月1日、地域リーグ時代からのサポーターは、初のJ1昇格を目に焼き付けるため大挙して福岡入りする。【荻島弘一】