[ 2014年2月11日8時42分

 紙面から ]アルメニアに向け、ソチ空港を出発する浅田(共同)

 【エレバン(アルメニア)10日=阿部健吾】フィギュアスケート代表の浅田真央(23=中京大)が、19日の女子ショートプログラム(SP)で始まる個人戦へ、最終調整地のアルメニアへ入った。8日の団体戦女子SPではトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に転倒して不安も口にしたが、問題は技術でなく「気持ち」と判断。団体戦のSP、フリーともに1位だったロシアの15歳ユリア・リプニツカヤも刺激に、悲願の金メダルへと再始動する。日本は団体戦は5位に終わり、メダルは逃した。

 戸惑い、動揺した心は、再び強くあろうとしているようだ。「旧約聖書」に出るノアの箱舟が漂着したとされるアララト山(5165メートル)を眺める、アルメニアの首都エレバン。到着した空港でビザを取得する際、大きな声が響いた「マオー!」。浅田も驚いた様子で窓口に駆け寄ると、取得のための記入用紙を目にしていた職員は「グッドネーム!」。思わず笑顔になり、「サンキュー」と感謝してコーカサス地方の小国に足を踏み入れた。午前8時の現地入りだったが、足取りは軽やかだった。

 2日前は笑顔とは正反対だった。好調を維持して臨んだ団体戦女子SPで、3回転半を大きく転倒。地元ロシア勢を応援する大歓声に五輪独特の緊張感を感じ、こわばった体が成功を許さなかった。本人は「これだけ練習をしてきて、こういう演技だったということは、じゃあなんなのかな」「(不安が)出てきました」と悲痛…。とても前向きに考えられなかった。

 2日後、アルメニアへ旅立ったソチ空港では、少し言葉が違った。「今回この試合で感じたことは気持ちということ」。2日間考え、整理が付いた。問題は技術でなく、気持ち1つ。だから「自分の演技に集中したい。歓声はすごく大きかったですが、自分のなかで経験してこういう試合だと受け取った」と収穫面も口にできた。

 9日の団体戦では応援席で試合を見た。目の前で深い印象を残したのはリプニツカヤ。フリーで世界歴代2位の141・51点をたたき出した。演技を見入り、終了すると立ち上がって拍手をした。その時、隣にいた高橋大輔に「すごいね」と同意を求め、リラックスした様子でリプニツカヤの演技を楽しんだ。

 問題は他者でなく、自分の気持ちと定めたからこそ、好演技を素直に称賛できた。そして、それは1つの刺激となって、また自分への誓いに変わる。アルメニアに渡る前、最後の言葉はこうだった。「ロシアの若い子もすごくいま良い状態。自分も最後の五輪で自分の納得する演技をすることを目指したい」。