なぜ日本陸連は選考途中に、余計なことを言ったのか。福士選手が大阪国際で標準記録を突破して優勝。福士陣営は内定の言質が欲しかったかもしれないが、陸連は初めから内定を出すとは言っていない。選考方法にはルールがあってみんな了解していること。福士陣営が「名古屋に出る」と言っても、陸連は動揺せず、どしっとしていれば良かった。

 ところが強化委員長が「出ないで」と言ってしまった。これがおかしい。先日の名古屋で田中選手が小原選手とのデッドヒートを制した。仮に2人のタイムがあと1分速くて福士選手を上回っていたら、陸連はどうしたのだろうか。福士選手に事実上の「内々定」のようなことを出して落とせたのか。大騒動になっていただろうし、どう収拾したのだろうか。

 陸連が自ら混乱の種をまいている。当初からのルールで堂々と押し通して、福士選手が出ようが、出まいが、黙っていればいい話。陸連が「出ないで」と内定を与えるかのようなことを言ったことが間違い。福士選手が名古屋に出ることで、五輪でコンディションが悪くても仕方ないし、それは福士陣営の自己責任。陸連は腹を据えて泰然自若にしていれば良かった。

 サッカー、バスケットボールのようなチームスポーツでは、選考に納得できない人は掃いて捨てるほどいる。(98年サッカーW杯で)カズが落選したときも協会に苦情が殺到した。でも、すべては監督が責任を持って選び、結果責任も負う。選び方がおかしいと判断されたら監督はクビ。今回は選考過程で陸連が反応し、逆に問題を大きくしてしまった。

 選考大会を減らすことは非現実的だし、スカッとする選考方法は正直思いつかない。世界選手権も含めると条件の違う4レースの中から3選手を選ぶことは簡単ではない。選ぶ側の陸連の強化委員会は議論を尽くし、だれもが納得できる説明を当事者、第三者にする。そして五輪の結果責任を取ることで、強化委員会の信頼度を高める。それがスムーズな選考につながる。