1秒で、月給以上がフイになり-。ゴールドコーストマラソン優勝から一夜明けた8日、世界選手権(8月10日開幕=モスクワ)男子マラソン代表の川内優輝(26=埼玉県庁)が帰国した。2時間10分1秒の大会タイ記録だったが、コース記録のタイムボーナス5000オーストラリアドル(約47万円)を逃し、ぼやくことしきり。1秒の重みをかみしめた。

 早朝6時半の成田空港。コアラのぬいぐるみを抱えながら、寝ぼけ眼の川内がしきりにボヤいた。「1秒で5000ドル、月給以上ですよ。1秒差で…。重いです。あと1秒速かったら5000ドル…」。絞り出すような声で、到着ロビーは川内劇場と化した。

 優勝賞金1万5000同ドル(約141万円)をゲット。これに世界新記録、大会新記録、コース新記録…などのタイムボーナスが海外レースでは加わる。大会タイ記録ということは、新記録に1秒足らないということ。長丁場の、ほんの一部分のどこかでピッチが上がっていれば、47万円も手に入れられた。

 これほどまでに残念がる川内だが、物欲には無頓着なようだ。ゴール後に地元テレビ局の取材には「お金より名誉を取れたことがうれしい」と答えたという。「(その無欲さが)ちょっと響いたのかも。お金にふだん執着しないと、こうなるのかな」と、コアラを抱えながら発した。

 過去にも「1秒」の因縁があった。今年3月のソウル国際マラソンで、自己ベストを1秒更新する2時間8分14秒をマーク。だが日本陸連が強化費500万円を支給するランク「シルバー」の指定標準記録には1秒届かなかった。

 「まあ500万円は使い切れないからいいけど、まさか42・195キロ走ってタイ記録とは。このレベルになると1秒1秒が大事になりますね」と「1秒の壁」を痛感した川内。「肩を並べられてうれしい」と瀬古氏に並ぶマラソン10勝目も喜んだが、かみしめた重みも貴重な財産。悔しさは世界舞台で晴らす。【渡辺佳彦】