最後まで、絶対に諦めない-。男子73キロ級元世界王者の秋本啓之(29=了徳寺学園職)が、強い心でリオデジャネイロ五輪代表争いに残った。ライバルが欠場、敗退する中、秋本は決勝で安昌林(21=韓国)を破って2年連続3回目の優勝。心臓病と戦う長男・心之介くん(1歳6カ月)の目の前で、夢の五輪出場への執念を見せた。

 強い思いが、秋本の体を突き動かした。若さとパワーで押してくる世界選手権銅メダルの安に、巧みな技で対抗した。1分28秒、背負い投げで技ありを奪う。その後も猛攻にあったが、しぶとく逃げ切ると「内容よりも結果。とにかく、勝つこと。(リオへの)希望の光は小さいけれど、それを追いかけるのが自分の使命だから」と笑った。

 相手の安は在日3世で桐蔭学園高、筑波大の後輩。高校時代から稽古の相手をし、2年前は付き人もしてもらった。「組んだ瞬間に成長したのが分かった。うれしかった」。しかし、負けるわけにはいかなかった。スタンドには、家族の姿。「必死にしがみついて戦う姿を、子供たちに見せたかった」と喜んだ。

 愛夫人に抱かれた1歳半の長男心之介くんは、心臓に疾患を抱え生まれた。11月には2度目の手術を受けた。「こんな小さな子が頑張っている。自分も頑張らなければ」。家族からは料理など体調面で支えられている。さらに、子供から戦う勇気も教わった。

 「諦めないことの大切さを子供に伝えたい」と話す。長女の美空ちゃん(9)は、ロンドン五輪銅メダリストの愛夫人同様にバレーボールをしている。「飽きっぽくて、ダメなんですよ」と笑う。美空ちゃんに、さらに心臓病と闘う心之介くんに、父としての思いを伝えたかった。

 代表争いは今大会を欠場した現役世界王者の大野が優勢だが、井上監督は「まだ分からない。世界王者3人が高いレベルで争ってほしい」と、中矢を含めた争いに期待した。さらに「つらい練習も声を張り上げ、先陣を切ってやる。柔道家として、人間として頼もしい、ありがたい」と秋本を絶賛した。「残り短い柔道人生、とにかく勝ち続けるだけです」。五輪への可能性にかけて、秋本は最後まで戦い続ける。【荻島弘一】

 ◆リオ五輪代表の選考 男女とも国内外大会の2年間の成績をポイント換算し、参考材料とする。今大会は対象の1つだが、国内唯一の国際大会で候補者が出そろうため重要な意味を持つ。超級を除く代表は、来春の全日本体重別選手権を最終選考として決定する。