記念枠で出場した京都成章が、高校日本代表候補のCTB本郷泰司主将(3年)を途中で欠きながらも勝ちきった。

 本郷は左足首を痛め前半15分で途中交代。SO奥谷友規(3年)は「(京都府大会)決勝だったらきつかった」と振り返りながら「今回は余裕を持ってやれた」と自信をのぞかせた。

 すべての始まりは11月15日、伏見工との府予選決勝だった。5月の公式戦では59-5と大勝した相手にまさかの敗戦。その後に記念枠での花園出場が決定したものの、メンタル面の強化は必須事項だった。湯浅泰正監督(51)は、複数のロンドン五輪代表選手に携わったメンタルトレーナーの笹場育子さん(35)に連絡。要請を受けた笹場さんは、あるとき7時間半にわたり個人面談をするなど、チームの弱点にとことん向き合ってくれた。特に関わりが深かった奥谷は「責任も一番大きいポジションだけれど、一番輝けるポジションでもあるんじゃない?」と笹場さんから言葉を授かり、心の余裕につながった。

 今年の京都成章は1度死んだ身。府予選決勝での敗戦後には「笑顔とチャレンジ」という合言葉ができた。大舞台になると、観衆の声援で仲間の声が聞こえなくなる。伏見工戦も同じだった。笹場さんの提案を受け、対策として取り入れたのはジェスチャーだ。「落ち着け」は手のひらを地面に向けて沈める動き。ミスをした際には胸に拳を当てるポーズをし、仲間で見合った。「今日もみんながやっていた。その時にやるべきことが分かって、次にチャレンジしていけた」。本郷の交代後に一時3点差に迫られるも、再度の突き放しに成功した。

 試合前日の27日夜、ミーティングで湯浅監督は初めて言葉を発さなかった。本郷主将を中心に、部員間でどんどんと議題が進められていた。メンタルトレーニングは結果的に、部員の自主性も育んだ。「今日はキャプテンがいない中でやれたのが大きな収穫。これまでしゃべっていたのは、ほぼ本郷だったのに。奥谷があんなに声を出すとは」(湯浅監督)。観戦に訪れていた笹場さんの前で、まずは1回目の恩返しに成功だ。

 30日の2回戦は三重・朝明との対戦を控える。奥谷は「1回負けて(記念枠で)出るチームは4校しかない。負けた悔しさを糧にできるのは、4チームだけ。もちろん目標は日本一ですが、目の前の敵だけを考えたい」と気持ちを高ぶらせた。京都成章は「1敗」で得たたくましさを、全国のラグビーファンに発信していく。