<世界体操>◇3日目◇9日◇東京体育館

 男子個人総合史上初の3連覇に挑む内村航平(22=コナミ)が、世界王者の根性でチームを引っ張った。団体総合予選前半で日本男子は合計364・291点をマーク。昨年中国が出した予選1位の得点を1・809点上回り、暫定首位に立った。初代表の田中佑典(21)が床運動で頭部を痛めて演技を中止するなど、アクシデントやミスが続いたチームを、エースがしっかりと立て直した。個人総合予選でも内村が前半戦を終わってトップに立った。

 エースが不屈の闘志で、チームを引っ張った。田中佑のアクシデントに加え、自らのけいれんもあり、心身ともに重圧がかかった。しかし、最後のあん馬で、チーム全員に声をかける内村の姿があった。「意識的に、いつもより声かけをしました」。自らを鼓舞し、チームも奮い立たせた。

 2種目目の跳馬の着地で、珍しく両手をつき、チーム最低の15・200点に終わった。すでに、けいれんが起こりそうで「(跳馬への)入りの部分が突っ込んでしまった」。しかし、終わってみれば、合計92・256点。前半戦を終わって、個人総合予選で首位。チームでもエースの役目を見事に果たした。

 4種目目の鉄棒の練習だった。着地で尻もちをついた瞬間に、内村がたまらず声を上げた。「やばい」。両ふくらはぎが悲鳴を上げた。即座に、入念なマッサージを施した。「やれますかね」。緊張が走る。最後は内村が「大丈夫です」とうなずいた。

 逆に気持ちを奮い立たせた。「(けいれんに)なってもいいやと思ってやった」。続く鉄棒の着地は微動だにせず。自身世界大会最高の15・533点をたたき出した。「いつ(足が)つってもおかしくない状況でした」。不屈の精神で乗り切った。

 8月10日の練習で、床運動の蹴りの時に右足首を捻挫した。本格的な練習を再開できたのは、9月上旬で、両足の筋力が落ちたという。そのためか、その後つり癖がつき、5日の公式練習では、床運動の最中につり、演技をやめていた。

 この日、失敗した跳馬は、団体総合決勝で難度を落とすことも考えている。現在跳んでいるヨー2(前転跳び前方伸身宙返り2回半ひねり)は難易度7・0。それを昨年まで跳んでいた難易度6・6のシューフェルト(伸身ユルチェンコ2回半ひねり)に変更予定だ。それほど、内心ではけいれんへの恐怖がある。

 しかし、決して表には出さない。田中佑のアクシデントでも、動じなかった。「本人が一番悔しいはず」。「しょうがないよ」と声をかけるだけにとどめた。爆弾を抱えるエースだが、切望する団体総合金メダルと、個人総合3連覇に向け、静かに闘志を燃やす。【吉松忠弘】

 ◆個人総合決勝進出条件

 予選は<1>団体総合<2>個人総合<3>種目別-すべての予選を兼ねている。内村が前人未到の3連覇に挑む個人総合決勝へは、予選で全種目を演技した選手の中から上位24人(1カ国・地域2人まで)が進出する。予選の得点は持ち越さない。