日本のお家芸が、五輪から消える-。国際オリンピック委員会(IOC)は12日、スイス・ローザンヌの理事会でロンドン五輪実施26競技から、レスリングを「除外候補」に決めた。20年五輪では、この日「中核競技」に選ばれた25競技に16年リオデジャネイロ大会で採用されるゴルフ、7人制ラグビーを加えた27競技の実施が確定。レスリングは野球とソフトボールなど7候補と1枠を争うが、残れる可能性は低い。突然のニュースに、20年東京五輪招致親善大使を務める吉田沙保里(30)らレスリング関係者、スポーツ関係者にも衝撃が走った。

 日本スポーツ界に、ショッキングなニュースが舞い込んだ。ロンドンで吉田や米満らが感動の金メダルを獲得したレスリングの五輪からの除外。「信じられない。悔しいし、ショックしかない」。愛知・至学館大での練習直後に一報を聞いた吉田は言葉を失った。

 16年大会でゴルフと7人制ラグビーを採用したIOCは、20年大会に向けて実施競技を検討していた。プログラム委員会が世界的な普及度やテレビ放送、スポンサー収入など39項目を分析。その報告書をもとに理事会で無記名投票が行われて「除外」が決まった。

 これまでは、近代5種やテコンドーなどが「除外」候補とみられていた。日本レスリング協会の福田富昭会長は「寝耳に水。詳しいことを聞かないと分からない」。佐藤満男子強化委員長も「まったくの驚き、疑問に思う」と話した。

 レスリングは1896年の第1回アテネ大会で実施された8競技のうちの1つ。ボクシングや柔道など他の格闘技と比べても、世界的に注目されてきた。04年アテネ大会からは、女子も採用。国際レスリング連盟(FILA)は、女子の階級増を、IOCに働きかけていた。FILA内部には「古代五輪からの競技」という存続への慢心があったのかもしれない。

 日本にとっても、お家芸がなくなるのは痛い。64年東京五輪では金メダル5個を獲得。近年は吉田、伊調がそろって3連覇するなど女子が活躍し、ロンドン大会では日本の金7個のうち4個を占めた。そして、吉田の国民栄誉賞獲得。今やレスリングは日本のメジャースポーツになっていた。

 20年東京五輪招致の親善大使を務める吉田は「招致できたら、止められても出ます」と公約を掲げ、積極的に活動していた。招致の「顔」が受けたショックは大きい。「自分としては世界選手権やリオデジャネイロ五輪を目指してやるしかない」と気丈に話したが、招致そのものにも「逆風」となる可能性さえある。

 レスリングは今後、他の7競技と1枠を争う。最終決定する9月の総会を前に、吉田を育てた栄和人女子強化委員長は「国をあげて残ることができるようにやってほしい」と悲痛な叫びを上げた。しかし、中核競技を外れた競技が生き残るのは難しい。長い五輪レスリングの歴史が幕を閉じる可能性は、極めて高い。

 ◆中核競技

 国際オリンピック委員会(IOC)が五輪の実施競技選定に導入した新方式。ロンドン五輪で実施した26競技のうち1競技を外した「25」を固定化し、不正など特別な事情がない限り外さない。

 ◆レスリングと夏季五輪

 歴史は古く、1896年の第1回アテネ五輪で男子グレコローマン無差別級が実施された。続く1900年パリ五輪こそ見送られたが、1904年の第3回セントルイス五輪で男子フリー7階級が行われ、以降は継続して行われている。04年の第28回アテネ五輪から女子も採用された。日本男子は不出場の80年モスクワ大会を除いて52年ヘルシンキ大会から15大会連続でメダル獲得。女子は吉田沙保里らの活躍で3大会連続で金メダルを複数個奪い、これまで日本金28、銀17、銅17の計62個のメダルを獲得。