大相撲の時津風部屋力士暴行死事件で、序ノ口力士の時太山(当時17、本名斉藤俊さん)を暴行し、死亡させたとして傷害致死罪に問われた兄弟子の怒涛こと伊塚雄一郎(25)明義豊こと木村正和(25)時王丸こと藤居正憲(23)の3被告の初公判が7日、名古屋地裁(芦沢政治裁判長)で開かれた。3人は起訴事実を大筋で認め、無罪は主張しなかった。日本相撲協会は、2月に3人の処分を「有罪なら解雇」と決めているが、すでに3人はそれを覚悟し、まげを切り、丸刈りで出廷した。

 「職業は?」。裁判長に問われ、3人は「力士です」と答えた。間違いはない。だが、頭にまげはなかった。逮捕から約8カ月。白のシャツ、黒のズボンで身を包んだが、けいこを積めない体に張りはなく、筋肉もそぎ落ちていた。

 検察側が読み上げた起訴状を受け、最初に伊塚被告が「傷害致死罪については認めます」と答えた。木村、藤居両被告も「罪は認めます」と続いた。日本相撲協会が決めた処分は「有罪なら解雇」だが、無罪は主張しなかった。

 主任弁護人の原木詩人弁護士によると、3人は7月に保釈され、それぞれの実家に戻った後に、自主的にまげを落としていた。伊塚被告は身内で断髪式を行ったという。「それぞれに思いはありますが、斉藤さんが亡くなった事実は大きく、無罪を主張するとは言えない。3人は力士ではなくなると覚悟しています」と同弁護士。それでも「事件の大きさを考えて」自主的な引退は選択せず、解雇処分を待つという。

 司法の判断も受け入れる覚悟だ。だが、暴行の動機については検察側が主張した「被害者への憤りから」という部分を否定。「絶対的な存在の親方の指示に逆らえなかった」とし、暴行は元時津風親方の山本順一被告(58=同罪で起訴)から指示されたと主張した。「斉藤さんを立ち直らせたかった」とも訴えた。

 山本被告の公判は分離され、公判前整理手続き中。3被告への指示を否認しているとみられる。同被告は、昨年10月に日本相撲協会を解雇される前にも、テレビ出演して暴行は兄弟子たちの独断だったと印象づける発言もしていた。これに大きなショックを受けた3被告は、山本被告に不満を訴え、現時津風親方(元幕内時津海)にも相談。同親方が「警察にすべてを話しなさい」とうながしたことで、捜査が大きく進展した経緯もある。

 3被告はこの日、入廷、退廷の際、斉藤さんの遺族と遺影に向けて深々と頭を下げた。審理中は目を伏せ、時折、涙を流してはそれをハンカチでふいた。公判は、10日まで4日連続の集中審理で行われる。8日には、現時津風親方の証人尋問が行われ、11月10日に結審する。【柳田通斉】