<大相撲初場所>◇千秋楽◇25日◇東京・両国国技館

 横綱朝青龍(28=高砂)が、横綱白鵬(23)との優勝決定戦を制し、5場所ぶりの優勝を飾った。本割は白鵬に完敗したが、1敗同士の決定戦では相手の懐に入る本来の相撲でリベンジを果たした。3場所連続休場で引退危機に追い込まれた場所での復活Vに、優勝インタビューでは「朝青龍が帰ってきました」と絶叫した。優勝回数は横綱貴乃花を超える歴代4位の23回目。再び黄金時代が到来しそうだ。

 朝青龍は、引き揚げる花道から泣いていた。親友が泣いている姿を目にし、感情があふれ出した。支度部屋では目を赤くしたまま、取材に応じた。「今まで違う優勝。久しぶりに朝青龍が、戻ってきた感じですよ」。場所前の苦しい思いを問われると、言葉を詰まらせた。

 引退危機を気力と経験で乗り切った。場所前は、誰もが予想しなかった復活V。1差リードで迎えたこの日も、それが生きた。

 本割は完敗。立ち合いで腰高になり、得意の左四つを狙うも、差し手争いに敗れてもろ差しにされ、一気に寄り切られた。「硬くなりすぎた。やってしまったという感じ。すべてダメ。何もできなかった」。取組直後は、首をひねって付け人に「(白鵬に)待ったをされたかと思ったよ」とつぶやいていた。

 いったん支度部屋に戻ると、休まずに付け人相手に低く立ち合うけいこを始めた。てっぽうも繰り返し、気合を入れ直した。

 優勝決定戦では、本割の反省を生かした。「相手に自分の左を差されると不利になる。右から攻めていこうと思った」。作戦通り先に右の前みつをつかみ、白鵬の胸に頭をつけた。相手の体が起きると、左を深く差してかいなを返した。そのまま腰を割っての万全の寄り切り。瞬間、ホッと息をつき、乱れたマゲのまま、歓声と悲鳴に包まれた国技館を笑顔で見渡し、勝ち名乗りを受けると両手を上に突き上げた。「1回負けて逆に楽になった。集中できた」。懐に入り、頭をつけて寄る。高知・明徳義塾高に留学し、体重80キロで相撲を始めたころに覚えた「原点」に立ち返ってのリベンジだった。

 原点回帰。きっかけは「日本のお母さん」との言葉だった。昨年12月の冬巡業中、高校時代に「僕のお母さんに似ている」となついていた土佐市在住の中沢百合子さん(73)からみかんが届いた。お礼の電話をかけると「(引退報道で)頑張りとはよう言わんけど、遊びに行かんと早よ寝や」と激励されたという。「やかましい」と笑いながら返した朝青龍だが、その言葉は胸に届いていた。左ひじ痛が完治せず、力の衰えを自認して周囲に「もう、長くないかな」と漏らしていたこの時期、「母」の言葉がひた向きだったころの自分を思い起こさせていた。

 深酒したのは、白鵬に1勝6敗と惨敗した横綱審議委員会けいこ総見の前夜(6日)が最後だった。今場所中も後援者との会食の誘いが相次いだが、午後9時には「もう、帰る」と席を立つようにしたという。大好きな酒は少量に抑え、タバコも一切やめていた。

 緩んでいた体はみるみるハリとツヤを取り戻した。井関光男専属トレーナーにも「日に日に状態がよくなり、疲れは感じさせなかった。心配した左ひじも悪くなっていない。不思議な体。もう、15日間戦えるくらい」といわしめた。

 文句の言いようがない完全復活劇。朝青龍は支度部屋でも、優勝インタビューでも「まだまだ頑張っていきます」と言った。「長い間、ケガをしてもうこういう舞台に立てないと思っていた」と弱気になっていた自分も認め、よみがえった心と体をアピールした。その目には、まだ光るものがあった。

 

 【柳田通斉】