<大相撲九州場所>◇12日目◇26日◇福岡国際センター

 横綱白鵬(24=宮城野)が賜杯争いの単独トップに立った。大関魁皇(37)を左の上手出し投げで下し、今年3度目となる無傷の12連勝。同じく無敗だった横綱朝青龍(29)が大関日馬富士(25)に敗れたため、ただ1人の全勝となった。09年勝利数も「83」として歴代単独2位に浮上。13日目の琴欧洲戦に勝てば、05年に朝青龍がマークした年間最多記録84勝に並ぶ。

 完全アウェーだった。白鵬の耳に入ってくるのは、仕切るたびに大きくなる「魁皇コール」。地元の英雄との対戦、そして目の前では朝青龍が敗れた。「自分の相撲を取ろうと。いい相撲を取ることだけを意識してました」。踏み込みよく圧力をかけ、突っ張り合いで172キロを俵まで一気に押し込んだ。右四つで組み止めると、すかさず左から上手出し投げ。魁皇、館内そして単独首位への重圧。3つの“敵”に勝った。

 ただ1人の全勝をキープした。これで、今年積み上げた白星は83個目。ついに、05年に朝青龍がつくった年間最多84勝に王手をかけた。もちろん、並ぶだけでは満足しない。取組後は「場所前から年間最多勝(記録更新)はしたいと考えていた。まだ安心できませんから」と、珍しく記録への意欲を見せた。

 繊細さ、との戦いだ。抜群の安定感を見せる1年だが、一方で毎場所のように「不眠」を訴える。前日25日夜、関東にいる後援会幹部に「眠れないです」と明かした。今場所は、初日と3日目をのぞいて朝げいこを休んだ。睡眠を十分取るために、自分のリズムを崩さない。その分、場所入り後は、支度部屋の一番奥でしこを踏み続ける。

 重圧に勝つには、この「下半身」がテーマだった。普段から精神面のアドバイスを送る、この後援者には「下半身で相撲を取るイメージで」と忠告されたばかりだった。後援者は「そろそろ心の緩みが出る時期。横綱は興奮すると、上半身が突っ込んでしまう。今日はしっかりと踏み込んでましたね」と喜んだ。

 ついに単独トップに立った。朝青龍皆勤の場所では逆転優勝をしたことがないだけに、まずは1つの壁を乗り越えた。武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)も「落ち着いている。中盤からは攻めも速くなっている」と目を細める充実ぶり。最多勝記録と賜杯奪回へ、残り3日間の戦い。白鵬は「気持ちの問題。コントロールしないと」と言い聞かせていた。【近間康隆】