<大相撲秋場所>◇13日目◇24日◇両国国技館

 横綱白鵬(25=宮城野)が、まずはダブルで偉業を達成した。大関把瑠都(25)を豪快に左上手で投げ捨てて、初場所14日目から60連勝。1938年(昭13)夏場所7日目に双葉山が記録して以来、72年ぶりとなる「60」の大台に乗せた。また、これが10年70勝目。2位把瑠都と18差ついたため、05年朝青龍と並ぶ歴代最速の秋場所13日目で「年間最多勝」が決まった。14日目に2敗の平幕嘉風(28)豪風(31)がともに敗れるか、結びで大関琴欧洲(27)に勝てば、4場所連続16度目の優勝が決定する。

 巨漢大関を豪快に投げつけた。見せ場満載の相撲で、白鵬がいつものように勝った。初場所14日目からの連勝は、ついに「60」に突入。「そんな変な気持ちはないね。なんて言えばいいのか…うれしいと言うのも変だし」。双葉山以来72年ぶりに足を踏み入れた「大台」の聖域に、無敵横綱も少し戸惑っていた。

 把瑠都も考えてきた。立ち合いの右差しは左手で跳ね上げられ、強烈な突き放しで動きを止められた。右下手をがっちり引かれ、白鵬はまわしをつかめず、右をのぞかせるだけ。しかし、白鵬はスルリと左足を前に出した。左半身をじわりと寄せて左上手をつかみ、把瑠都を起こした。右下手、左上手を懸命に引き付けて巨体を揺さぶり、最後は体を1回転。しなやかに回りながら土俵に投げつけ、ただ1人の全勝を守った。

 当たり前のようにして勝つ難しさ-。勝率を高めるため、取り入れたのが「イチロースタイル」だった。支度部屋で13日目Vを阻止した豪風の勝利を見て笑うと、いつものタイミングでトイレへ駆け込んだ。取組前に必ず1回行くお決まりの行動。仕切りでは、左足から土俵の中へ入る。最後の仕切りだけは、俵の上に足をかけて入った。土俵入りの時から、決して所作を乱さない。約4年前から労働科学研究所の内藤堅志氏(45)に学んできた、運動生理学の成果だった。

 内藤氏は当初、ルーティンを知らなかった横綱に「同じ動作で勝負に挑むと、勝率が全然違う」と一流運動選手の例を出して説いた。特にモデルとしたのが、打席へ入る前に屈伸するイチローだ。“先生”が10年連続200本安打を成し遂げた日に、白鵬も60連勝を達成。今では白鵬も「繰り返してやるのはつまらないけど、それが大事なんだ」と力説する。よく「流れが良かった」と振り返る言葉は、取組だけの話ではないのだ。

 内藤氏は言う。「横綱はいいと思ったことは次々と取り入れるけど、うまく自分流にアレンジされる。決して『まね』するんじゃなく『型を破る人』なんです」。型破りの横綱は把瑠都を下し、早くも4年連続の年間最多勝を決めた。05年朝青龍に並ぶ最速決定にも「あ、そう。頑張ります」と素っ気ない。14日目に琴欧洲に勝てば、自身初の4連覇。連勝も61に伸びる。歴史の扉まで破り続ける白鵬は、まだまだ負けるわけにいかない。【近間康隆】