<大相撲秋場所>◇千秋楽◇26日◇両国国技館

 横綱白鵬(25=宮城野)が「相撲の神様」を視界にとらえた。14日目に4場所連続16度目の優勝を決めた白鵬は、大関日馬富士(26)を寄り切って初場所14日目から62連勝。8度目の全勝Vは、双葉山と大鵬に並ぶ歴代トップとなった。双葉山の69連勝まで「マジック7」とし、双葉山が生まれ、道場を開いた地である九州場所(11月14日初日、福岡国際センター)で、不滅と言われた大記録に挑む。

 優勝の味を、思う存分に満喫した。白鵬が念願の「賜杯」をガッチリつかんだ。29キロ以上の重みがあったのだろう。土俵の上で2場所ぶりに“再会”すると、感慨深げに話した。

 白鵬

 やっぱりいいですね。今までより光っていた。陛下にねぎらいの言葉をいただいて、本当にありがたかった。あれがあったから頑張れました。

 名古屋場所では賭博問題の影響を受けて、日本相撲協会が賜杯を辞退。千秋楽の表彰式で白鵬は号泣し、無念の涙を見た天皇陛下から8月3日に「おねぎらいとお祝い」の書簡が届いていた。

 連勝と全勝を懸けた一番も、強さを見せつけた。日馬富士の出足を落ち着いて得意の右四つで組み止めると、休むことなく前に出る。一気に寄り切って4場所連続8度目の全勝Vを達成。兄バドゥボヤクさん(40)がモンゴル国旗を揺らす目の前で、69連勝の双葉山、優勝32度の大鵬とともに名を連ねた。

 不滅の「69」も見えた。「相撲の神様」と言われた双葉山を「横綱はみんな神様だから、(双葉山は)神様の神様の神様」と心の底から尊敬する。ただ、連勝記録は貪欲(どんよく)に狙う。紗代子夫人(26)は「双葉山さんの話を、今場所はしなかった。現実味が沸いてきたんじゃないでしょうか」と明かした。

 双葉山が生まれた九州。九州場所の宿舎から車で10分ほどの距離にある太宰府には、双葉山が43年に「相撲錬成道場」を開いた場所もある。因縁の土地でも白鵬が勝ち進めば、7日目にタイ記録、8日目の中日に70連勝の新記録がかかる。これまで以上に重圧がかかりそうだが、育ての親の熊ケ谷親方(元前頭竹葉山)は「目標をつくって、いい緊張感があったほうがいい」という。

 7年前の秋、幕下だった白鵬が帰国を希望すると、「6勝」をノルマにした。見事にクリアしてからは、身近な数字を次々と設定。重圧をプラスに転じてきた白鵬は「モンゴルには『山が高いからといって戻ってはならない。行けば越えられる』ということわざがある」と胸を張った。「白星を重ねていくことで、1人でも2人でも喜んでくれたらうれしい」。先場所は自粛した支度部屋での「バンザ~イ」の声を、笑顔満開の白鵬はいつまでも気持ちよさそうに浴びていた。【近間康隆】