<大相撲九州場所>◇9日目◇22日◇福岡国際センター

 大関魁皇(38=友綱)が、9日目で勝ち越しを決めた。小結阿覧(26)を寄り切り、2日目から勝ちっ放しで、4年ぶりの8連勝。自らの最多記録を更新する通算99回目の勝ち越しで、横綱白鵬らとともに1敗を守った。ギリギリで力士生命をつなぎとめた、かど番だった先場所から一転、あまりの変わり身に、自分も師匠もかつてのライバルたちも驚いた。

 立ち合い直後、四つに組んだ魁皇が、見計らって右上手を取る。相手の圧力をこらえ、左腕を返しながら、グッと寄った。「まわしが取れたんでね。取ったら慌てないで攻めていこうと、いつも思っている」。升席に陣取った福岡券番の芸妓(げいこ)12人は、この一番に満足し、結びを待たずに席を立った。

 幕内104場所目の地元で、3年半ぶりに9日目で勝ち越した。8連勝は4年ぶり。通算100回目の勝ち越しには、あと1回に迫った。「不思議なくらい。こんなに早く8番勝てるとは思わなかった」。秋場所は、負け越せば引退を覚悟していた。8勝7敗で九州入りすると、人が変わったように勝ち始めた。

 友綱親方(元関脇魁輝)は「びっくりだね。一番(の要因)は、体調だろう。巡業を休んで、治療に専念できた。福岡に来て、腹が固まったんじゃないか」と話す。あちこちに痛みは残るが、中元トレーナーは「これほどの体調は久しぶり。その日のうちに疲れをためないようにしている」と説明した。

 かつての好敵手たちも目を見張る。この日の取組前、激励に訪れた佐ノ山親方(元大関千代大海)が「どっからこんな力が出るんだ?」と聞いたら「これが最後の悪あがきじゃあ」と答えたという。審判として取組を見た藤島親方(元大関武双山)は「出来過ぎですね。良すぎるから、これからが心配」と驚いた。

 本人さえも予想できなかった、現役晩年の狂い咲き。出身地の魁皇後援会では、具体的な動きはないものの「優勝したら、パレードはどうするんだ?」との声も上がり始めている。1敗は4人で、残りは6日。色気が出始める力士もいるが「オレは、そんな意識は全然ないよ」と、浮かれた顔は封印した。【佐々木一郎】