19日に急逝した元横綱大鵬の納谷幸喜さん(享年72)の前で、大嶽部屋が稽古を再開する。大嶽親方(52=元十両大竜)が20日、明らかにした。部屋の上がり座敷に遺体が横たわり、土俵の半分は来客用にふさがったまま。稽古を最重視した亡き師匠の教えを守り、異例の環境で四股を踏む。

 いつまでも稽古を休んではいられない。大鵬さんの死去から一夜明けた、この日の朝こそ休んだが、21日に再開する。大嶽親方は「大鵬さんには『バカヤロー、稽古しろ』と怒られるのを承知で、今日は眠っていただく。明日から当分、オヤジの前でやる。空いてるところで四股を踏み、体を動かします」と話した。

 上がり座敷には、死に化粧を施した大鵬さんが横たわっている。顔は露出し、体は白布にくるまれている。横には焼香台がある。来客用に、土俵の半分は板の間になり、稽古で使えるスペースは、いつもの半分だけ。申し合いやぶつかり稽古はできない。師匠の亡きがらに見守られながら四股を踏むという、前代未聞の稽古になる。

 初場所は、今日21日が9日目。通夜は30日のため、しばらく遺体は置かれたまま。大嶽親方は「若い衆には我慢してやってくれと言うつもり。大鵬さんは、力士は何があっても、まわしを締めて、稽古することが大事と言う方。それに近いことはやりたい。半分しか土俵が見えていない状態だけど」と説明した。

 部屋の前身となる大鵬部屋に入門した最古参の三段目闘鵬は、異例の環境にも「いいんじゃないですか。身が引き締まる。場所中ですから、稽古を休むわけにいかないですから」。幕下右肩上は「大鵬親方は喜ぶと思いますよ。稽古、稽古、稽古と言ってた方だから」と話した。

 大鵬さんが喜ぶのは、弟子たちが熱のこもった稽古をして、番付を上げていくこと。入門丸1年で、早くも部屋頭になったエジプト人の幕下大砂嵐は「今場所勝ち越すことが、恩返しになる。大鵬さんからは『ベストを尽くせ』『稽古をもっと頑張れ』と言われてきた。レジェンド。偉大な方だった」と気力を高めた。史上最多優勝32回の大横綱の前で、たるんだ稽古は見せられない。【佐々木一郎】

 ◆大嶽部屋(おおたけべや)1971年(昭46)12月に大鵬部屋として創設された。同年夏場所限りで引退した元横綱の一代年寄大鵬が、内弟子数人を連れて二所ノ関部屋から分離独立。大鵬親方が05年5月に定年を迎えるため、04年1月に16代大嶽(元関脇貴闘力)に師匠を交代、大嶽部屋へ名称を変更した。10年に野球賭博への関与で16代大嶽が解雇され、現在は17代大嶽(元十両大竜)が継いでいる。現所属力士は8人で、幕下大砂嵐が部屋頭。正面玄関には「大嶽部屋」とともに「大鵬道場」の看板が掲げられている。