11年4月に八百長関与と認定されて日本相撲協会から追放された元蒼国来の恩和図布新(おんわとうふしん)氏(29)が25日、地位確認訴訟で東京地裁から解雇無効との判決を勝ち取った。敗訴した日本相撲協会は、判決を覆すだけの証拠が乏しいため控訴を断念することが、協会関係者の話で分かった。4月上旬の臨時理事会で正式決定する。引退した力士が復帰するという前代未聞の事態になる。

 勝訴した元蒼国来の恩和図布新氏は東京地裁を出ると「土俵に戻りたいです。戻してください。それだけです」と訴えた。日本相撲協会が控訴を断念することで、早ければ夏場所(5月12日初日、両国国技館)から幕内力士として土俵に戻る。角界では1度引退すれば、本来は復帰は不可能。今回は極めて異例のケースになる。

 元蒼国来は、10年夏場所の春日錦戦が八百長だったと認定された。八百長問題を受けて設置された協会の特別調査委員会は、元春日錦の竹縄親方と仲介役とされた元幕下恵那司の供述で判断した。しかし、裁判の証人尋問で恵那司は当該取組の仲介について「はっきり分からない」とし、元春日錦は出廷せず、裏付けが得られなかった。

 古久保正人裁判長は「原告(蒼国来)が過去に八百長に関与したことがうかがえるものの、春日錦戦が八百長だったと認めるには十分でない」と判断した。また、引退勧告に従わず「協会内の秩序を乱す」との理由による解雇処分も手続きが十分でないとされた。

 相撲協会は弁護士ら数人による検証チームを発足させ、敗訴の要因となった八百長調査の不備などを調べる見通し。数千万円単位の弁護士費用を使い、「裁判に勝てる」としていた特別調査委員会(現在は解散)への不信感も高まってきた。

 相撲協会の北の湖理事長は「判決を真摯(しんし)に受け止めます。弁護士と話しながら、対応を決めていく」とした。明日27日には、夏場所の番付編成会議が行われるが、蒼国来の番付はまだ考慮できない。解雇される直前、蒼国来は東前頭16枚目で8勝7敗とした。どの番付で復帰するかも、珍しいケースで混乱も生じそうだ。

 ◆蒼国来栄吉(そうこくらい・えいきち)本名・恩和図布新(おんわとうふしん)。中国・内モンゴル自治区出身。荒汐部屋に所属し、03年秋場所初土俵。10年初場所新十両。同年秋場所新入幕。最高位は東前頭13枚目。11年4月に八百長関与を認定されて日本相撲協会から引退勧告を受け、拒否したため解雇されていた。得意は右四つ、投げ。新入幕時の体格は186センチ、128キロ。29歳。