<大相撲夏場所>◇14日目◇24日◇東京・両国国技館 史上2例目の珍事で、2敗同士の対決は大関稀勢の里(27=田子ノ浦)が生き残った。横綱日馬富士(30)にはたき込まれるも、軍配は稀勢の里。さらに物言いの末、日馬富士がまげをつかんでいたとして、反則勝ちを収めた。横綱の反則負けは03年名古屋場所5日目の朝青龍以来、2人目。稀勢の里は昨年夏場所以来1年ぶりに、1敗を守った横綱白鵬(29)との優勝争いを千秋楽につなげた。

 結びの一番がまた、騒然となった。生き残りをかけた対決。満員札止めの1万605人が見守った結末には再び「まげ」が絡んだ。

 互角の立ち合いから、圧力をかけたのは稀勢の里だった。たまらず引いた日馬富士。その左手が、頭をつかんだ。倒れまいとする大関が右足で踏みとどまった瞬間、左手の指が深く、まげに吸い込まれていった。

 腹からばったりと落ちた稀勢の里。そのとき、目の前の湊親方(元前頭湊富士)が恐る恐る手を挙げた。物言い。軍配は、実は大関に上がっていた。朝日山審判長(元大関大受)は「立行司は横綱の右かかとが出たと判断したが、私は出てないと思った。ただ、まげはつかんでいると思った。物言いは両方含めて」。

 2分を超える協議中、稀勢の里は「俵の上に(相手の)足はしっかりあった」と負けも覚悟した。だが、判断はまげつかみ。12日目に鶴竜が横綱初の反則で勝ったが、今度は横綱の反則負け。紙一重の勝負で、残ったのは稀勢の里だった。

 まげについて「ちょっと分からなかった」と話した稀勢の里。以前「まげをつかまれたなんて、死んでも言いたくない。そんな相撲を取った自分が悪い」と漏らした。その思いだった。

 ただ、つかんだ方は潔い。日馬富士は「最初は首の後ろに手があって引いたんだけど、入ってしまった。抜けなかった。もし、勝っても『本当は引っ張りました』と言っていた」。物言いの前に大関の背中をたたいた。「ごめんなさいという意味だよ」と明かした。

 白鵬と1差で、望みをつないだ稀勢の里。状況は昨年夏場所と似る。当時は先に敗れて、しらけさせた。「気持ちは切らさない」。06年初場所の栃東以来8年ぶりの日本出身力士の優勝へ。可能性がある限り、あきらめない。【今村健人】

 ◆朝青龍のまげつかみの反則負け

 03年名古屋場所5日目、朝青龍(東横綱)-旭鷲山(東前2)戦で、朝青龍が引き落とした際に旭鷲山のまげをつかみ反則負け。横綱がまげをつかんでの反則は、この1度だけ。取組後には朝青龍が旭鷲山の車のドアミラーを壊すトラブルもあった。