<大相撲名古屋場所>◇12日目◇24日◇愛知県体育館

 「平成世代」の先頭はオレだ。西前頭11枚目の高安(24=田子ノ浦)が、同5枚目の遠藤(23)を力強く寄り切って2敗を守った。母親の母国フィリピンで応援してくれる祖母スサーナさん(76)らのためにも、優勝争いを盛り上げる。

 どうだと言わんばかりだった。高安は右手1本で遠藤を土俵外に追いやった後、あごを上げた。「スター力士ですから。会場も沸くし、お客さんも来ている。つまらない相撲は取れない。正面から迷いなく思い切って行った」。力と技と思いが詰まった一番だった。

 立ち合いは力。思い切り突っ張った。押し勝ち、土俵際まで押し込んだ。残られて組んだ瞬間、技を出した。奪った左下手を捨てて、相手得意の上手を防いだ。その間に右上手を引く。最後は気持ち。「体が動き、テンポよく取れた」。平成世代で最初に三役昇進した意地。「スター」と呼ぶ相手を気迫で上回った。

 兄弟子の「負けず嫌い」を見習った。引退した隆の山とはいつも三番稽古。体格で勝つも、土俵際で何度も逆転された。何より05年の入門時、難しい日本語を流ちょうに話していた姿に「すごいと思いました」。

 「異国」というものを、高安も最近経験した。夏場所後、初めて母ビビリタさんの祖国フィリピンを訪れた。空港で歓待され、セブ島から船で1時間離れたボホル島ではパトカーに先導された。さらに船で5分の小さな島に向かう。車は1台もない。「両手を広げた幅の1本道しかない」島に、祖母スサーナさんがいた。14年ぶりの再会だった。

 「おばあちゃんは泣いて喜んでくれました」。たった4時間だけ。言葉は分からない。でも、母を介していろんな話をした。相撲中継を見ていることも教えてくれた。名古屋から約3150キロ離れた島にも自分のファンがいる。その事実が心を強くした。今場所、連敗は1度も見せていない。

 今日13日目に稀勢の里が白鵬を倒せば、自力優勝の芽も出る。「あと1番勝ったら、少し意識しようかな」。口をつく言葉にも、迷いはない。【今村健人】