<大相撲秋場所>◇千秋楽◇28日◇東京・両国国技館

 横綱白鵬(29=宮城野)が、千代の富士に並ぶ歴代2位となる31度目の優勝を決めた。結びの一番で横綱鶴竜(29)を掛け投げで下して14勝1敗。1差で追う新入幕の逸ノ城を退けた。九州場所(11月9日初日、福岡国際センター)で、歴代1位となる大鵬の優勝32回に挑む。

 白鵬には、過去30回とは違う達成感があった。新入幕の逸ノ城との優勝争いに「初めての経験ですし、特別な味。若い者の壁になっていくという自分の言葉を信じた。疲れました。ここまで勝ち上がったことを褒めてあげたい」。新勢力をたたえ、鶴竜との結びを制してホッと息をついた。

 優勝を積み重ねた裏には、孤独との闘いもある。角界の現役やOBで、白鵬を成績で上回る人間はごくわずか。助言も苦言も直接向き合ってくれる存在が少なく、報道や関係者を通じて耳に入る。先場所も「時間一杯の際、必ず汗を拭くこと」との紙が支度部屋に掲示され、間接的に注意を受けた。相手を滑らせるための故意ではないかとも批判された。懸賞金を掲げるように受け取る行為も、多方面から疑問の声が出た。

 今場所前には「汗が多い時には拭いているつもりだったが、私が気づいていない時もあったのかもしれないな。懸賞だって人間だから自然と力が入ってしまう時もある。反省はしないけれど、おとなしくやらないとな」と思いを明かした。

 今場所は入念にタオルでぬぐい、懸賞金も気迫が前面に出た何番か以外は意識的に止めた。忠告を聞く耳はしっかり持つ。

 この日、逸ノ城との優勝決定戦を願う館内から「鶴竜コール」が飛んだ。負けて万歳されたこともある。白鵬優勝のマンネリ脱却を願うような声援も増えた。「いろいろと言われるのは、強いからですよ。仕方ないでしょ。逆にそれだけ強さを認められているんだという気持ちで土俵を務めています」と漏らしたこともある。

 同じような経験を持つ北の湖理事長(元横綱)は「巨人もそうだけど、アンチが多いというのはそれだけ応援してくれる人も多いってことと思ってやっていた」と振り返る。

 親方衆で唯一、白鵬に厳命してくれる存在が九重親方(元横綱千代の富士)だ。白鵬は「体が小さかった私が憧れて映像を見てきた大横綱と、肩を並べられてうれしい」と言う。次は「角界の父」として慕い、昨年1月に死去した大鵬の32回がいよいよ迫る。大記録への気持ちを問われてもあえて言葉を閉ざした。時には厳しく、時には温かく声をかけてくれた2人への感謝の気持ちは言葉ではなく、結果で示す。【鎌田直秀】