<大相撲初場所>◇13日目◇23日◇両国国技館

 横綱白鵬(29=宮城野)が、初日から13連勝で前人未到の史上最多33度目の優勝を決めた。直前に2敗の日馬富士(30)が敗れ、勝てばV決定の大一番で、大関稀勢の里(28)を取り直しの末に押し倒した。昨年夏から5場所連続優勝で、13日目Vも史上最多6度目。横綱勝率9割に迫る圧倒的強さを見せつけ「角界の父」と慕ってきた大鵬超えを成し遂げた。

 両手に目いっぱいの力を込め、白鵬が稀勢の里の両脇を押し込んだ。170キロ近い相手をのけぞらし、土俵下へと吹っ飛ばした。つい2カ月前、涙顔で並んだ大鵬の大記録を一気に追い抜いた。深いため息をつき「いい相撲だった。うれしいですね」。“角界の父”と慕う恩師を超えた偉業を、ゆっくりかみしめた。

 宿敵を倒して決めた。稀勢の里には、10年九州場所で敗れて連勝を「63」で止められたことがある。最初の一番は一気の出足で寄り倒し、軍配も自身に上がったが、物言いの末に同体で取り直し。倒れた際に右太ももを打撲した。それでも、負けられない宿命の相手に弱みは見せない。次の一番は立ち遅れ、途中体勢を崩しながらも立て直し、攻め勝った。「取り直しがあっての33回目。楽ではなかった」と実感を込めた。

 このまま勝ち続ければ、来場所5日目に横綱勝率9割に達する。綱を張った歴代の誰より負けない男も、くじけそうになった時はあった。10年の野球賭博、11年の八百長と不祥事連発の際には、師匠の宮城野親方(元前頭竹葉山)に「賜杯ももらえないのに、やったって意味ない」と愚痴り、泣いた。63連勝で止まった時も「休場したい」と弱音を吐いた。それでも、出続けた。10年には天皇陛下から書簡をもらい、師匠にも「バカ言うな。お前がいなきゃファンの楽しみがなくなるじゃないか」と励まされ、土俵に立ち続けた。

 今場所も陛下からは力をもらった。8日目に実現した4年ぶりの天覧相撲。「前半1週間は硬さがあった。中日に陛下が来て相撲が良くなった」と感謝した。

 入門から15年見守ってきた宮城野親方は「まだまだ心の弱い面もある」という。横綱自身も認める。「人間というのはいくら強くても、いくら偉大でもね、何回優勝しても、そのときの運、心の持ち方は、まったく違うもの。人は死ぬまで勉強だ」。弱いから、努力する。今場所も毎朝、稽古場で2時間近く汗をかいた。「飛ばしすぎだ」と師匠も心配したほど。あくなき向上心が、未開の地を進む原動力。誰も踏み入れたことのない道を、これからも進み続ける。【木村有三】

 ◆白鵬の幕内での取り直し

 前頭筆頭時代に関脇若の里に勝利。新小結の05年九州では大関を狙う関脇琴欧州と投げ合う熱戦の末、寄り切られた。最近では昨年春千秋楽、日馬富士との横綱対決で負けた。